[ニュース解説]Intel、AIの「眼」RealSenseをスピンアウト:5000万ドル調達で狙うロボット革命の未来

目次

はじめに

 本稿では、半導体大手のIntelがAIロボティクス事業を独立させたというニュースについて、米CNBCが2025年7月11日に報じた記事「Intel spins out AI robotics company RealSense with $50 million raise」を基に解説します。

引用元記事

要点

  • Intelは、AIロボティクスと生体認証を手がける事業「RealSense」をスピンアウト(事業分離・独立)させた。
  • 新会社「RealSense」は、シリーズAラウンドで5000万ドル(約70億円規模)の資金調達を実施した。
  • RealSenseの中核技術は、カメラで物体や空間の奥行きをリアルタイムに認識する「3Dビジョン技術」である。
  • この動きの背景には、TeslaやAmazonなども巨額投資を行うロボティクス市場の急成長と、Intel自身の事業再編戦略がある。

詳細解説

Intelの大きな決断:AIロボティクス事業「RealSense」のスピンアウト

 Intelが長年育ててきたAIロボティクス事業「RealSense」を独立した会社としてスピンアウトさせました。新会社は「RealSense」という名前を引き継ぎ、新たに5000万ドルもの資金を外部から調達しました。この資金は、新製品ラインの開発や世界的に高まる需要に応えるために使われる予定です。

 「スピンアウト」とは、企業が特定の事業部門を切り離して独立した会社にすることを指します。親会社から独立することで、より迅速な意思決定が可能になったり、今回のように外部から直接資金を調達しやすくなったりするメリットがあります。Intelは、RealSense事業がより自由に、そしてスピーディーに成長するためには、独立させるのが最善だと判断しました。Intel自身も新会社の少数株主として残り、関係を維持します。

RealSenseを支える中核技術「3Dビジョン」とは?

 では、RealSenseとは一体どのような技術なのでしょうか。その中核は、「3Dビジョン技術」、特に「深度カメラ」と呼ばれるものです。

 一般的な2Dカメラが平面的な写真しか撮れないのに対し、RealSenseの深度カメラは、人間のように物体までの距離や空間の奥行きを立体的に認識することができます。これは、複数のカメラや赤外線センサーなどを組み合わせることで実現しており、対象物の形状、大きさ、位置関係をリアルタイムで正確にデータ化できるのが最大の強みです。

 この技術により、以下のようなことが可能になります。

  • ロボットの眼: 自律走行ロボットやドローンが、障害物を避けながら安全に移動する。
  • 高度な生体認証: 顔の凹凸を正確に読み取り、写真などでは突破できないセキュアな顔認証を実現する。
  • ジェスチャーコントロール: コンピュータや機器を、身振り手振りで直感的に操作する。
  • 拡張現実(AR): 現実空間の形状を正確に把握し、よりリアルなAR体験を提供する。

 新会社のCEOであるNadav Orbach氏が語る「物理的なAI(Physical AI)」とは、まさにこのようにAIが現実世界を正確に認識し、物理的に作用する技術のことを指しており、RealSenseはその中核を担う「眼」となるのです。

なぜ今、ロボティクスなのか?市場の動向と将来性

 IntelがこのタイミングでRealSenseを独立させた背景には、ロボティクス市場の爆発的な成長があります。記事でも触れられているように、Morgan Stanleyはヒューマノイドロボットの市場が2050年までに5兆ドル(約700兆円)規模に達すると予測しています。

 Teslaが開発する人型ロボット「Optimus」や、Amazonが倉庫で活用する自動搬送ロボット、そしてAIの王者NVIDIAが「AIの次に大きな機会」としてロボティクスを挙げるなど、世界の巨大テック企業がこの分野に巨額の投資を行っています。これは、少子高齢化による労働力不足の解消、生産性の向上、人間には危険な作業の代替など、ロボティクスが社会の根幹的な課題を解決するポテンシャルを秘めているからです。

 このような巨大市場で成功を収めるには、ロボットが賢く動くための「頭脳」であるAIだけでなく、周囲の環境を正確に把握するための「眼」が不可欠です。RealSenseのスピンアウトは、この「眼」の需要が今後ますます高まることを見越した戦略的な一手と言えるでしょう。

Intelの戦略と今後の展望

 一方で、この動きはIntel自身の事業戦略とも深く関わっています。近年のIntelは、NVIDIAなどがリードするAI半導体分野で厳しい競争に直面しており、大規模な事業再編を進めています。RealSenseをスピンアウトさせることで、Intel本体は主力である半導体事業に経営資源を集中させることができます。

 つまり、今回の決定は、RealSenseの成長を加速させると同時に、Intel本体の事業効率を高めるという、双方にとってメリットのある「選択と集中」戦略の一環なのです。独立したRealSense社は、機動力を活かして様々なロボットメーカーとの連携を深め、3Dビジョン技術のデファクトスタンダード(事実上の標準)となることを目指していくでしょう。

まとめ

 本稿では、IntelのRealSense事業スピンアウトのニュースについて解説しました。この出来事は、単なる一企業の経営判断に留まりません。それは、AIがコンピュータの中だけでなく、現実世界で物理的に機能する「Physical AI」の時代が本格的に到来したことを象徴しています。

 ロボットが私たちのすぐそばで活動するのが当たり前になる未来において、その「眼」となる3Dビジョン技術は、社会のインフラとも言える重要な役割を担うことになります。独立によってさらなる飛躍を目指すRealSense社の今後の動向は、テクノロジー業界だけでなく、私たちの未来の生活を占う上でも非常に注目されます。

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