[ニュース解説]Googleの「AI検索」はメディアを殺すのか?独立系メディアが欧州で独禁法違反の訴え

目次

はじめに

 本稿では、Googleが検索サービスに導入した新機能「AI Overview」が、コンテンツを提供する出版社との間で新たな対立を生んでいる問題について、ロイター通信が2025年7月4日に報じた「Exclusive: Google’s AI Overviews hit by EU antitrust complaint from independent publishers」という記事をもとに、解説します。

引用元記事

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要点

  • 独立系の出版社で構成される団体が、Googleの「AI Overview」機能は市場での支配的な地位を不当に利用したものであるとして、EU(欧州連合)の欧州委員会に独占禁止法違反で苦情を申し立てた
  • 出版社側の主な主張は、AI Overviewが検索結果の最上部に表示されることで、自社のウェブサイトへの訪問者数(トラフィック)と、それに伴う広告収入などが著しく奪われているというものである。
  • 特に深刻な問題として、出版社が自社コンテンツをAIに利用されることを拒否(オプトアウト)した場合、Googleの通常の検索結果にさえ表示されなくなる不利益を被る可能性があり、事実上、拒否権が存在しないことである。
  • この状況は競争を著しく阻害し、回復不可能な損害を与えるとして、出版社側は欧州委員会に対し、この機能を一時的に停止させるなどの緊急措置を求めている。

詳細解説

背景:Google検索の進化と「AI Overview」とは?

 皆さんが日常的に利用するGoogle検索は、今、大きな変革の時を迎えています。その中心にあるのが、本稿のテーマである「AI Overview(AIによる概要)」です。これは、ユーザーが何かを検索した際に、従来のように関連するウェブサイトのリンクを一覧で表示するだけでなく、その最上部にAIが生成した回答の要約を提示する機能です。

 例えば、「EU 独占禁止法とは」と検索すると、これまでは法律事務所や政府機関の解説ページへのリンクが表示されていました。しかしAI Overviewが導入されたことで、それらのページにアクセスしなくても、AIが「独占禁止法とは、公正な競争を守るための法律で…」といった形の要約を検索結果画面で直接示してくれます。

 ユーザーにとっては、わざわざリンクをクリックしてページを読み込む手間が省け、素早く答えを得られるという利便性があります。しかし、その裏側で、情報の「もと」となるコンテンツを作成している出版社やメディアは、深刻な事態に直面しています。

何が問題になっているのか? 出版社の訴え

 今回の苦情申し立ての中心的な論点は、大きく分けて3つあります。

  1. ウェブサイトへの訪問者と収益の激減
     出版社や多くのウェブメディアは、サイトに掲載した広告からの収入や、有料記事の購読者を増やすことで事業を成り立たせています。その大前提となるのが、ユーザーが検索エンジン経由で自社のサイトを訪れてくれることです。しかし、AI Overviewが答えを要約してしまうと、ユーザーはGoogleの検索結果ページだけで満足してしまい、わざわざ出版社のサイトを訪れる理由がなくなってしまいます。
     これは、メディアのビジネスモデルそのものを根幹から揺るがす、死活問題です。記事によれば、出版社側はこれにより「トラフィック、読者、そして収益の重大な損失」が発生していると訴えています。
  2. 事実上「拒否できない」コンテンツ利用
     今回の問題で最も悪質だと指摘されているのが、この「オプトアウト」の問題です。通常、自社のコンテンツを他社のサービスで利用されたくない場合、その利用を拒否する(オプトアウトする)権利があるはずです。
     しかし、Googleの仕組みでは、AI Overviewに自社コンテンツが利用されることを拒否すると、Googleの通常の検索結果にさえ表示されなくなる(インデックスから削除される)という、極めて大きな不利益を被ることになります。Google検索からの流入が事業の生命線である多くの出版社にとって、これは到底受け入れられる選択肢ではありません。
     つまり、Googleは「AIにコンテンツを無断で要約されるか、それともインターネット上での存在感を失うか」という、究極の選択を迫っているのに等しいのです。これが出版社側が「Googleは市場での支配的な地位を濫用している」と主張する最大の根拠です。
  3. 公正な競争の阻害
     出版社側は、Googleが自社のAIサービス(AI Overview)を検索結果の最上部という最も目立つ場所に表示し、そのために出版社のオリジナルコンテンツを利用していると主張しています。これは、Googleが自社のサービスを不当に優遇し、コンテンツ制作者である出版社を不利な立場に追いやる行為であり、公正な競争を定めた独占禁止法に違反する、というのが彼らの訴えです。

Googleの反論と今後の展開

 もちろん、Google側もこの訴えに対して反論しています。Googleの広報担当者は、「検索における新しいAI体験は、人々がさらに多くの質問をすることを可能にし、コンテンツやビジネスが発見されるための新たな機会を生み出す」と述べています。また、ウェブサイトへのトラフィック減少は、季節的な需要やユーザーの興味の変化、通常のアルゴリズム更新など、様々な要因によって起こりうるとも主張しています。

 今回の苦情申し立ては、EUの欧州委員会だけでなく、英国の競争・市場庁にも提出されており、また米国でも同様の訴訟が起きています。この問題は、欧州に限らず世界的な広がりを見せているのです。

 今後、規制当局がこの訴えをどう判断するかが大きな焦点となります。もし独占禁止法違反が認められれば、Googleは事業慣行の大幅な変更を命じられる可能性があります。その判断は、今後のAIとインターネットにおける情報流通の未来を大きく左右することになるでしょう。

まとめ

 本稿では、GoogleのAI Overview機能をめぐる、独立系出版社による独占禁止法違反の苦情申し立てについて解説しました。

 この問題は、単なる巨大テック企業とメディアの争いではありません。AIによる利便性の追求が、これまで質の高い情報を社会に提供してきたコンテンツ制作者のビジネスモデルを破壊しかねないという、現代社会が直面する大きな課題を浮き彫りにしています。

 生成AIが生み出す情報の価値をどう考え、その元となるオリジナルコンテンツを制作した人々の権利や対価をいかにして守るのか。そして、圧倒的な力を持つプラットフォーマーと、その上でサービスを展開する事業者との間に、公正な関係をいかに築いていくのか。この問いに対する健全な答えを、私たち社会全体で真剣に模索していく必要があります。今後の規制当局の動向を注意深く見守る必要があるでしょう。

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