はじめに
本稿では、米国の著名な投資家であり、実業家でもあるマーク・キューバン氏が語る「AIがもたらす未来」について、CNBCの記事「Mark Cuban: The world’s first trillionaire could be ‘just one dude in the basement’ who’s great at using AI」をもとに、その内容を解説します。AIがどのようにして史上初の「兆万長者(トリリオネア)」を生み出す可能性があるのか、そして、その革命的な変化の中で個人がどのように立ち振る舞うべきかについて語っています。
引用元記事
- タイトル: Mark Cuban: The world’s first trillionaire could be ‘just one dude in the basement’ who’s great at using AI
- 発行元: CNBC
- 発行日: 2025年7月3日
- URL: https://www.cnbc.com/2025/07/03/mark-cuban-the-worlds-first-trillionaire-could-use-ai-to-get-there.html
要点
- 著名投資家マーク・キューバン氏は、AIを卓越して使いこなす個人が、人類史上初の兆万長者(トリリオネア)になると予測している。
- その人物は、巨大な組織に属さずとも、「地下室にいる一人の男」のような個人である可能性を指摘している。
- AIの真価はまだ発揮されておらず、現在はPCやインターネットの黎明期と同様の「プレシーズン」の段階である。
- AIには雇用の代替、悪用のリスク、環境負荷といった課題も存在するが、その急速な進化に適応するためには、私たちが実際にAIに触れてみることが不可欠である。
- AIは自ら思考する存在ではないが、情報を効率的に探し出し、人間が理解しやすい形に整理・提示する、極めて強力なツールである。
詳細解説
マーク・キューバン氏とは何者か?
まず、今回の発言者であるマーク・キューバン氏について簡単にご紹介します。彼はアメリカの著名な億万長者であり、起業家、そして投資家です。NBA(プロバスケットボールリーグ)のチーム「ダラス・マーベリックス」の元オーナーとして知られるほか、起業家が投資を求めてプレゼンする人気リアリティ番組「Shark Tank」に長年出演していたことでも有名です。テクノロジー業界にも精通しており、その発言は常に大きな注目を集めます。本稿で取り上げるのは、そんな彼が語るAIの未来像です。
「AIが史上初の兆万長者を生む」という衝撃的な予測
キューバン氏は、最近出演したポッドキャストで「AIが世界初の兆万長者を生み出すだろう」と予測しました。兆万長者(トリリオネア)とは、1兆ドル(現在の為替レートで約150兆円以上)もの資産を持つ人物を指します。現在の世界のトップ富豪の資産額を遥かに超える、まさに天文学的な数字です。
キューバン氏によれば、その人物は「まだ誰も発見していない方法でAIを使いこなすことができる人」だと言います。これは、既存のビジネスモデルの延長線上ではなく、AIによって全く新しい価値を創造する個人が登場することを示唆しています。
なぜ「地下室にいる一人の男」なのか?
この予測の中で特に興味深いのが、「兆万長者になるのは、地下室にいる一人の男かもしれない」という比喩です。これは、AIの登場によって、富を生み出すためのルールが根本的に変わる可能性を示しています。
これまでの時代、大きな成功を収めるには、多くの従業員、大規模な工場、多額の資本といったリソースが必要不可欠でした。しかしAI時代においては、優れたアイデアと、AIを自在に操る高度なスキルさえあれば、個人がたった一人で世界を変えるほどのサービスや製品を生み出し、莫大な富を築くことが可能になるかもしれないのです。これは、テクノロジーがもたらす究極の「個の力」の解放と言えるでしょう。
AIの現状はまだ「プレシーズン」
現在、AIはスケジュール作成のような日常業務の自動化から、企業の採用プロセスを75%も短縮する(メキシコ料理チェーンChipotleの例)といった企業活動まで、様々な場面で活用され始めています。しかしキューバン氏は、これらはAIの能力の「プレシーズン」、つまり準備期間に過ぎないと言います。
彼は、PC、インターネット、スマートフォンが登場した頃を振り返ります。当初は「そんなもの必要ない」という声も多くありましたが、5年も経てば「それなしの生活なんて考えられない」というほど社会に浸透しました。AIも同様の道を辿り、やがて私たちの生活に不可欠な存在になると彼は見ているのです。
無視できないAIの課題と、私たちがすべきこと
もちろん、キューバン氏はAIの輝かしい側面だけを見ているわけではありません。記事では、AIがもたらすいくつかの深刻な課題についても触れられています。
- 雇用の喪失: AIによって自動化できる仕事が増え、一部の職業が失われる可能性。
- 悪用のリスク: オンライン詐欺、サイバー攻撃、偽情報の拡散などへの悪用。
- 環境への影響: AIの学習や運用には膨大な計算能力が必要であり、データセンターを冷却するために大量の電力と水が消費されます。例えば、OpenAIのGPT-3というモデルを学習させるためには、米国の一般家庭約120世帯が1年間に消費する電力が必要だったと報告されています。
しかし、こうした課題があるからといって、AIから目を背けるべきではない、とキューバン氏は強く主張します。テクノロジーの進化はあまりにも速いため、むしろ積極的に関わっていくべきだというのです。
彼が勧めるのは、「GoogleのGeminiやChatGPTのような生成AIをダウンロードして、とにかく何でも質問してみること」です。ただし、重要な注意点があります。それは、「AIの答えを鵜呑みにしないこと」そして「間違っていると思ったら、それをAIに指摘すること」です。AIはまだ完璧ではなく、誤った情報や偏見(バイアス)を含んだ回答をすることがあります。ユーザーが間違いを指摘し、対話することで、AIはより賢く、より公平になっていきます。
キューバン氏は最後にこう締めくくっています。「AIは実際に思考しているわけでも、賢いわけでもない。しかし、情報を探し出し、人間が理解しやすい形にパッケージングする能力に長けている」。この言葉は、AIを魔法の杖ではなく、私たちの知性を拡張するための強力なツールとして捉えるべきだという、本質的な視点を示しています。
まとめ
本稿では、著名投資家マーク・キューバン氏の予測をもとに、AIが切り拓く未来について解説しました。AIは、個人が歴史上類を見ない富を築くことを可能にするほどの、破壊的なポテンシャルを秘めています。それは、大規模な組織に頼らずとも、個人のアイデアとスキルが直接的に巨大な価値を生む新しい時代の到来を意味します。
一方で、雇用の問題や環境負荷など、私たちが真摯に向き合わなければならない課題も山積しています。私たちにとって重要なのは、AIの進化をただ傍観したり、恐れたりするのではなく、その特性と限界を正しく理解し、積極的に触れ、使いこなし、そして改善していく姿勢です。キューバン氏の言葉は、変化の激しい時代を生きる私たちにとって、未来への向き合い方を考える上で参考になります。