[まとめ]Gemini 2.5まとめ:Googleの次世代思考モデルファミリーの全貌

目次

はじめに

 2025年6月17日、Googleは同社の最新かつ最も高性能なAIモデルファミリー「Gemini 2.5」シリーズの正式版リリースを発表しました。この発表は、AI業界において画期的な意味を持つものです。単なる性能向上にとどまらず、AI応答前の「思考」という革新的なアプローチ、開発者の利便性を大幅に向上させる料金体系の見直し、そして実用性を重視した3つのモデル展開など、AIの実用化に向けた重要な進歩が数多く含まれています。

 本稿では、Google公式技術レポートおよび開発者向けブログ記事をもとに、Gemini 2.5の技術的革新から実用的な活用方法まで、開発者や企業が知っておくべき情報を網羅的に解説します。

引用元

要約

  • Gemini 2.5 ProとGemini 2.5 Flashが正式版(Stable/GA)としてリリースされた。
  • 新たに、最も高速・低コストな「Gemini 2.5 Flash-Lite」がプレビュー版として登場した。
  • Gemini 2.5ファミリーは、応答前に推論を行う「思考モデル」であり、開発者はその「思考バジェット」を制御できる。
  • Gemini 2.5 Flashの料金体系が更新され、思考の有無による価格差が撤廃された。

詳細解説

Gemini 2.5ファミリーの全体構成

3つのモデルの戦略的位置づけ

Gemini 2.5ファミリーは、パレート効率性(Pareto Frontier)の概念に基づいて設計されており、性能とコストの最適なバランスを提供する3つのモデルで構成されています。

モデル名主な特徴最適な用途利用状況
Gemini 2.5 Pro最高性能、最多機能複雑なコーディング、高度な推論、自律エージェントタスク正式版
Gemini 2.5 Flash性能と速度・コストのバランス日常業務、高速レスポンスが必要なアプリケーション正式版
Gemini 2.5 Flash-Lite最高速・最低コスト大量データ処理、分類、要約、翻訳等の高スループットタスクプレビュー版

モデル別詳細仕様

Gemini 2.5 Pro
  • コンテキスト長:100万トークン
  • 出力長:64,000トークン
  • 思考機能:デフォルトでオン(制御可能)
  • 特徴:業界最高水準のコーディング性能、WebDev Arena #1獲得
Gemini 2.5 Flash
  • コンテキスト長:100万トークン
  • 出力長:64,000トークン
  • 思考機能:制御可能な思考バジェット
  • 特徴:バランス重視、企業での実用性が高い
Gemini 2.5 Flash-Lite
  • コンテキスト長:100万トークン
  • 出力長:8,000トークン
  • 思考機能:デフォルトでオフ(必要に応じて有効化可能)
  • 特徴:2.0 Flashよりも高品質で高速

革新的な「思考モデル」とは

思考メカニズムの詳細

 Gemini 2.5シリーズの最大の特徴は、「思考モデル(Thinking Models)」であることです。従来のAIモデルが質問を受けて即座に回答を生成するのに対し、Gemini 2.5は応答前に内部で推論プロセスを実行します。

技術的実装

  • 強化学習により数万回の推論ステップを実行
  • 複数の仮説を生成し、批判的に評価
  • 最終回答前に自己評価と改善を実施

思考バジェット制御

開発者は「思考バジェット(Thinking Budget)」パラメータにより、モデルの思考時間を制御できます:

  • 範囲:0〜24,576トークン
  • 動作:最大制限として機能(固定割り当てではない)
  • 自動調整:タスクの複雑さに応じてモデルが判断
  • 効果:最大600%のコスト削減が可能(思考を最小限にした場合)

思考による性能向上の実証

技術レポートによると、思考機能により以下の性能向上が確認されています:

ベンチマーク思考なし思考あり改善率
AIME(数学)29.7%72.0%+143%
GPQA(科学)65.2%82.8%+27%
LiveCodeBench(コーディング)29.1%55.4%+90%

最新価格体系と開発者への影響

Gemini 2.5 Flashの価格改定

2025年6月17日より、Gemini 2.5 Flashの料金体系が以下のように変更されました:

改定内容

  • 入力価格:$0.15 → $0.30/100万トークン(+100%)
  • 出力価格:$3.50 → $2.50/100万トークン(-29%)
  • 思考の有無による価格差を撤廃

開発者へのメリット

  1. 予測可能性の向上:思考機能の利用をためらう必要がなくなった
  2. コスト最適化:出力中心のアプリケーションでは実質的にコスト削減
  3. 柔軟な活用:思考バジェットを性能要件に応じて自由に調整可能

モデル別価格比較

モデル入力価格($/100万トークン)出力価格($/100万トークン)
Gemini 2.5 Pro$1.25(~200K)/ $2.50(200K+)$10(~200K)/ $15(200K+)
Gemini 2.5 Flash$0.30$2.50
Gemini 2.5 Flash-Liteプレビュー版のため価格未発表プレビュー版のため価格未発表

注:Pro は長いコンテキスト(200,000トークン超)に対して高い料金が適用されます

技術的進歩とベンチマーク結果

コーディング性能の飛躍的向上

Gemini 2.5 Proは複数のコーディングベンチマークで業界最高水準を達成しています:

ベンチマークGemini 1.5 ProGemini 2.5 Pro改善率
LiveCodeBench30.5%69.0%+126%
Aider Polyglot16.9%82.2%+386%
SWE-Bench Verified34.2%67.2%+96%

科学・数学分野での突破

数学および科学分野でも顕著な性能向上を実現しています:

  • AIME 2025:17.5% → 88.0%(+403%)
  • GPQA (Diamond):58.1% → 86.4%(+49%)
  • Humanity’s Last Exam:4.6% → 21.6%(+370%)

長文コンテキスト処理能力

100万トークンのコンテキスト処理において:

  • LOFT(検索タスク):75.9% → 87.0%
  • MRCR-V2(推論タスク):26.2% → 58.0%

新機能とモダリティ拡張

ネイティブオーディオ機能

Gemini 2.5では、テキスト入力からの自然な音声生成が可能になりました:

主要機能

  • 多言語対応:80以上の言語をサポート
  • スタイル制御:感情、ペース、アクセント等を自然言語で指定
  • マルチスピーカー:複数話者による対話形式の音声生成(ポッドキャスト形式)
  • リアルタイム対話:native audio dialogによる双方向音声コミュニケーション

Deep Think:次世代推論モード

Google I/O 2025で発表された実験的な機能:

特徴

  • 複数の仮説を並行して検討
  • 最終回答前の徹底的な自己批判
  • USAMO 2025(米国数学オリンピック)で優秀なスコアを記録

ビデオ理解の革新

処理能力

  • 最大3時間の動画を一度に処理可能
  • 66トークン/フレームの効率的な処理(従来の258から大幅削減)
  • デモンストレーション動画からインタラクティブアプリ生成

実用例と企業での活用

Gemini Plays Pokémon:自律エージェントの実証

 独立開発者のJoel Zhangによる実験プロジェクトでは、Gemini 2.5 Proがポケモンブルーをライブプレイし、813時間で殿堂入りを達成しました。

技術的ハイライト

  • 長期計画能力:100,000トークン超のコンテキストでパス検索
  • 複雑なパズル解決:ロケット団アジトのスピナーパズルを一発解決
  • 創造的問題解決:ゲームのソフトロック状況からのFLY技による脱出

Google製品での実装

Gemini 2.5は既に多くのGoogle製品で活用されています:

  • AI Overviews:検索結果の要約(15億月間アクティブユーザー)
  • Geminiアプリ:一般ユーザー向けチャット(4億ユーザー)
  • NotebookLM:ポッドキャスト自動生成
  • Project Mariner:Webブラウジングエージェント
  • Jules:コーディングエージェント

教育分野での優位性

LearnLMの統合により、教育専門家との比較評価で他モデルを上回る性能を実現:

  • 学習科学の5原則すべてで最高スコア
  • 教育者による実用性評価で最高評価
  • 多様な教育シナリオでの有効性を実証

開発者向け実用情報

API アクセス方法

モデル指定

gemini-2.5-pro          # Pro版
gemini-2.5-flash        # Flash版  
gemini-2.5-flash-lite   # Flash-Lite版(プレビュー)

利用可能プラットフォーム

  • Google AI Studio(無料利用枠あり)
  • Vertex AI(企業向け)
  • Geminiアプリ(一般ユーザー向け)

思考バジェット制御例

{
  "model": "gemini-2.5-flash",
  "prompt": "複雑な数学問題を解いてください",
  "thinking_budget": 8192  // 高精度が必要な場合
}

{
  "model": "gemini-2.5-flash",
  "prompt": "この文章を要約してください", 
  "thinking_budget": 0     // 高速処理が必要な場合
}

マイグレーション情報

移行スケジュール

  • Gemini 2.5 Flash Preview 04-17:2025年7月15日にサービス終了
  • Gemini 2.5 Pro Preview 05-06:2025年6月19日にサービス終了

推奨アクション

  1. 正式版APIへの移行(gemini-2.5-flash, gemini-2.5-pro)
  2. コスト重視の場合はFlash-Liteの検討
  3. 思考バジェット機能の活用によるコスト最適化

安全性とガバナンス

Frontier Safety Framework評価

Google DeepMindの安全性評価フレームワークにより、以下4分野で評価を実施:

評価分野

  1. CBRN:化学・生物・放射線・核関連リスク
  2. サイバーセキュリティ:攻撃能力の評価
  3. 機械学習R&D:AI開発加速のリスク
  4. 欺瞞的アライメント:人間の制御を損なうリスク

結果:いずれの重要能力レベル(CCL)にも達しておらず、現時点で深刻な危害のリスクは低いと評価されています。

責任あるAI開発

主要な取り組み

  • 自動化されたレッドチーミング
  • 外部安全性テスト
  • 多言語でのバイアス評価
  • プライバシー保護の強化

今後の展望と課題

AI開発の新たな課題

技術レポートでは、モデル性能の急速な向上に伴う新たな課題も指摘されています:

ベンチマーク飽和問題

  • Aider Polyglotで5倍の性能向上
  • SWE-bench Verifiedで2倍の性能向上
  • 既存ベンチマークの急速な飽和

評価の複雑化

  • エージェントシステムの評価困難性
  • 経済的価値を持つタスクの評価必要性
  • より高度なベンチマーク開発の必要性

次世代AI開発の方向性

重要なトレンド

  1. マルチモーダル統合の深化
  2. エージェント能力の向上
  3. 実世界タスクへの対応強化
  4. コスト効率性の継続的改善

まとめ

 Gemini 2.5ファミリーの登場は、AI技術の実用化において重要な転換点を示しています。主要なポイントを以下にまとめます。

技術革新の意義

  1. 思考モデルの実用化:応答前推論による品質向上とその制御可能性
  2. コスト効率性の向上:開発者が用途に応じて最適なモデルを選択可能
  3. マルチモーダル機能の統合:テキスト、音声、画像、動画の統合処理

開発者・企業へのインパクト

  1. 開発効率の向上:高性能なコーディング支援とエージェント機能
  2. コスト予測性の改善:思考機能の料金統合による運用計画の立てやすさ
  3. スケーラビリティ:Flash-Liteによる大規模展開の実現

今後への期待

 Google DeepMindは、これらの技術進歩を基盤として、より高度な自律エージェント、長期間のタスク実行、そして真の汎用AI助手の実現を目指すとしています。企業や開発者にとって、Gemini 2.5は単なるツールの進歩ではなく、AI活用戦略を根本的に見直す機会を提供しているといえるでしょう。

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