はじめに
本稿では、英The Guardianが報じた「Google’s emissions up 51% as AI electricity demand derails efforts to go green」という記事を基に、AIの膨大な電力需要がGoogleの二酸化炭素排出量をいかに増加させているかを解説していきます。
引用元記事
- タイトル: Google’s emissions up 51% as AI electricity demand derails efforts to go green
- 著者: Helena Horton
- 発行元: The Guardian
- 発行日: 2025年6月27日
- URL: https://www.theguardian.com/technology/2025/jun/27/google-emissions-ai-electricity-demand-derail-efforts-green



要点
- Googleの二酸化炭素排出量は、2019年を基準として51%増加した。
- この急増の主な原因は、AIモデルの学習と運用に必要なデータセンターの電力需要の爆発的な増加である。
- IEA(国際エネルギー機関)の予測では、2026年までにデータセンター全体の電力消費量は、日本の年間総電力需要に匹敵するレベルに達する可能性がある。
- Googleは再生可能エネルギーへの投資を拡大しているが、サプライチェーン全体を含む「スコープ3」排出物の削減に苦戦しており、エネルギー需要の伸びに脱炭素化の取り組みが追いついていない。
- Googleは、AI技術が社会全体の排出量削減に貢献する可能性も示しているが、自社の環境負荷増大という大きなジレンマに直面している。
詳細解説
AIブームが招いた深刻な電力問題
近年、ChatGPTをはじめとする生成AIが世界中で急速に普及していますが、その裏側で膨大な電力が消費されていることはあまり知られていません。AIモデル、例えばGoogleの「Gemini」やOpenAIの「GPT-4」などを動かすためには、「データセンター」と呼ばれる巨大な計算施設が必要不可欠です。データセンターには無数の高性能サーバーが設置されており、AIの複雑な計算処理(学習や推論)のために24時間365日稼働しています。
引用元の記事によれば、このAIを支えるためのデータセンターの急拡大が、Googleの環境負荷を増大させる主因となっています。同社の電力消費量は前年比で27%も増加しており、これは再生可能エネルギーを導入するスピードを上回る勢いです。結果として、2019年比で二酸化炭素排出量が51%も増加するという、衝撃的な事態を招いています。
日本の年間電力に匹敵? データセンターの未来
この問題はGoogle一社にとどまりません。IEA(国際エネルギー機関)は、世界のデータセンターが消費する総電力量は、2022年のレベルから2026年までに倍増し、約1,000TWh(テラワット時)に達すると予測しています。この数字は、日本の年間総電力需要とほぼ同じ規模であり、いかにAIとデータセンターがエネルギーを消費するかが分かります。
さらに、AI技術の進化は予測が難しく、記事では「非線形な成長」という言葉でその懸念が示されています。これは、技術の進歩がある点を境に爆発的に加速し、エネルギー需要も同様に予測不能なレベルで急増する可能性があることを意味しています。
削減が難しい「スコープ3排出物」とは?
記事では、Googleが「スコープ3排出物」の抑制に失敗していると指摘されています。これは一体どういう意味でしょうか。企業のCO2排出量は、その発生源によって3つの範囲(スコープ)に分類されます。
- スコープ1: 事業者自らによる直接的な排出(例:社用車の燃料、工場の燃焼プロセス)
- スコープ2: 他社から供給された電気、熱、蒸気の使用に伴う間接的な排出(例:オフィスやデータセンターの電力使用)
- スコープ3: スコープ1、2以外の、サプライチェーン全体における間接的な排出(例:原材料の調達、製品の輸送、従業員の通勤、製品の使用・廃棄)
Googleは、データセンターで使用する電力を再生可能エネルギーで賄う(スコープ2の削減)努力をしていますが、スコープ3、特にデータセンター建設のための資材調達やサーバー製造といったサプライチェーンからの排出量が22%も増加しています。スコープ3は自社の管理が及びにくい範囲であるため、多くの企業にとって削減が最も難しい課題とされています。
脱炭素化の切り札「SMR」の遅れ
データセンターの膨大な電力を安定的に、かつクリーンに供給する解決策として期待されているのがSMR(小型モジュール炉)です。これは、工場で製造して現地で組み立てることができる小型の原子炉で、従来の大型原発に比べて建設が容易で安全性が高いとされています。データセンターの近くにSMRを建設すれば、送電ロスなくクリーンな電力を供給できると期待されています。
しかし、Googleの報告書では、このSMRのような先進技術はまだ開発の初期段階にあり、コストも高く、実用化には時間がかかると認められています。脱炭素化の切り札と目される技術の展開が遅れていることも、課題をより深刻にしています。
まとめ
本稿では、The Guardianの記事を基に、AIの急速な発展がGoogleのCO2排出量を大幅に増加させている実態を解説しました。AIが私たちの生活や仕事を豊かにする一方で、その裏では膨大な電力消費とそれに伴う環境負荷という、深刻なジレンマが存在します。
Googleは再生可能エネルギーの購入や、AI自身を活用して社会全体の省エネに貢献するといった取り組みを進めていますが、現状では自社のエネルギー需要の伸びに追いついていません。特に、サプライチェーン全体を含む「スコープ3」の排出量削減は大きな壁として立ちはだかっています。 この問題は、AIを開発・提供する巨大テック企業だけの課題ではありません。技術の進歩がもたらす恩恵と、地球環境の持続可能性をいかに両立させていくかは、私たち社会全体が向き合わなければならない重要なテーマであると言えるでしょう。