はじめに
本稿では、AIアシスタント「Claude」で知られるAnthropic社が発表した、AIコーディングアシスタント「Claude Code」の最新アップデートについて2025年6月19日に公開された「Remote MCP support in Claude Code」という記事を基に解説します。
引用元記事
- タイトル: Remote MCP support in Claude Code
- 発行元: Anthropic
- 発行日: 2025年6月19日
- URL: https://www.anthropic.com/news/claude-code-remote-mcp
- 関連ドキュメント: https://docs.anthropic.com/en/docs/claude-code/mcp
要点
- AIコーディングアシスタント「Claude Code」が、リモートMCPサーバーに対応した。
- MCP(Model Context Protocol)とは、LLM(大規模言語モデル)が外部ツールやデータソースと対話するためのオープンな接続規格である。
- この対応により、開発者はローカル環境でサーバーを管理する手間なく、URLを追加するだけでSentryやLinearといったサードパーティ製の開発ツールとClaude Codeを安全に連携させることが可能になった。
- 結果として、コーディング作業を中断することなく、プロジェクト管理情報やエラーログなどの外部コンテキストをAIが直接参照・活用できるようになり、開発ワークフローの大幅な効率化が期待される。
詳細解説
1. そもそもMCPとは何か? なぜ重要なのか?
今回のアップデートを理解する上で鍵となるのが、「MCP(Model Context Protocol)」という技術です。これを理解するために、まずAIコーディングアシスタントが直面している課題について考えてみましょう。
GitHub Copilotに代表されるAIコーディングアシスタントは非常に強力ですが、その能力は基本的に「開いているファイル」や「書いているコード」など、限られた情報(コンテキスト)に依存します。しかし、実際の開発では、プロジェクト管理ツールのチケット情報、エラー監視ツールのアラート、チームのドキュメントなど、様々な外部情報を参照しながら作業を進めます。
これまでのAIは、これらの外部情報を直接理解できませんでした。そのため、開発者はAIとの対話と、各種ツール画面の確認とを何度も行き来する必要がありました。この「作業の切り替え」をコンテキストスイッチと呼び、集中力の低下や生産性のロスに繋がる大きな課題とされています。
MCPは、この問題を解決するために作られた「LLMが外部ツールやデータソースと対話するためのオープンな接続規格(プロトコル)」です。いわば、AIと外部ツールがコミュニケーションをとるための「共通言語」や「ルール」のようなものです。MCPを通じて、Claude Codeは外部ツールの情報を直接「見て」、さらにはツールを「操作する」ことさえ可能になります。
2. 「リモートMCPサーバー」対応の何が画期的なのか?
これまでもMCP自体は存在しましたが、利用するには開発者が自分のPCやローカルネットワーク内に手動で「MCPサーバー」をセットアップする必要がありました。これには専門知識や管理の手間が伴います。
今回の「リモートMCPサーバー」対応は、この手間を完全に取り払うものです。主な利点は以下の通りです。
- 圧倒的な手軽さ: 開発者は、SentryやLinearといったツールを提供するベンダーが用意したリモートサーバーのURLを、コマンド一つでClaude Codeに追加するだけで連携が完了します。自分でサーバーを構築・管理する必要は一切ありません。
- メンテナンスフリー: サーバーのアップデート、規模の拡大(スケーリング)、安定稼働(可用性)は、すべてツール側のベンダーが責任を持って行ってくれます。開発者は、インフラ管理を気にすることなく、本来のコーディング業務に集中できます。
- セキュアな認証: OAuth 2.0という標準的な認証方式に対応しており、安全に自分のアカウントと連携できます。APIキーを手動でコピー&ペーストしたり、機密情報をローカルに保存したりする必要がなく、セキュリティリスクを低減します。
3. 具体的に何ができるようになるのか?
記事では、具体的な活用例として2つのツールが紹介されています。
- Sentry(エラー監視ツール)との連携:
Sentryから報告されたエラーや問題の情報を、Claude Codeの画面を離れることなく直接取得できます。そして、そのエラー情報をコンテキストとしてAIに与えながら、「このエラーの原因は何?」「どう修正すればいい?」といった対話を通じて、効率的にデバッグ作業を進めることができます。 - Linear(プロジェクト管理ツール)との連携:
Linearで管理しているプロジェクトの課題やタスクの情報を、Claude Code内で直接参照できます。これにより、開発者は「このチケットで求められている要件は何だっけ?」と別画面を確認することなく、常にタスクの文脈を把握しながらコーディングに集中できます。Linear社のエンジニアリング責任者も、「タブの切り替えやコピー&ペーストが減り、より速く、より良いソフトウェアを開発できる」とコメントしています。
これらの例が示すように、リモートMCPサーバー対応は、開発ワークフローからコンテキストスイッチを排除し、開発者を「フロー状態(ゾーン)」に留め続けるための強力な後押しとなります。
4. 技術的な補足:柔軟な設定管理
ドキュメントによると、MCPサーバーの設定は3つの異なる「スコープ」で管理できます。これにより、個人の状況やチームの要件に応じて柔軟な使い分けが可能です。
- localスコープ: 自分だけが、現在のプロジェクト内でのみ使う設定。
- projectスコープ: チームで共有する設定。設定ファイル(.mcp.json)をGitなどで共有することで、チームメンバー全員が同じツール連携を利用できます。
- userスコープ: 自分が、PC上のすべてのプロジェクトで共通して使う設定。
このように、個人用の実験的なツールからチーム全体の標準ツールまで、きめ細かく管理できる設計になっています。
5. 実際の使い方:Claude CodeでMCPサーバーを設定する
ここでは、実際にClaude CodeでリモートMCPサーバーを設定し、活用するための具体的な手順を解説します。
基本的な設定コマンド
MCPサーバーの追加は、Claude Codeのコマンドラインから簡単に行えます。基本的な構文は以下の通りです:
# MCP Studio Serverの追加
claude mcp add [サーバー名] [URL]
# MCP SSE Serverの追加
claude mcp add [サーバー名] [URL] --type sse
設定スコープの選択
前述の通り、MCPサーバーは3つのスコープで管理できます。-sまたは–scopeフラグで指定します:
# 現在のプロジェクトでのみ利用(デフォルト)
claude mcp add my-server https://example.com/mcp -s local
# チーム全体で共有(.mcp.jsonファイルを生成)
claude mcp add team-server https://example.com/mcp -s project
# 自分の全プロジェクトで利用
claude mcp add global-server https://example.com/mcp -s user
環境変数の設定
認証情報やAPIキーが必要な場合は、-eフラグで環境変数を設定できます:
claude mcp add sentry-server https://sentry.example.com/mcp \
-e SENTRY_API_KEY=your_api_key \
-e SENTRY_ORG=your_org_name
実用例:SentryとLinearの設定
記事で紹介されたツールを実際に設定する場合の例:
# Sentryサーバーの追加(チーム共有)
claude mcp add sentry https://sentry-mcp-server.com \
-s project \
-e SENTRY_TOKEN=your_oauth_token
# Linearサーバーの追加(個人用)
claude mcp add linear https://linear-mcp-server.com \
-s user \
-e LINEAR_API_KEY=your_api_key
サーバー状態の確認と管理
設定したMCPサーバーの状態は、Claude Code内で/mcpコマンドを使って確認できます:
/mcp
このコマンドにより、現在アクティブなサーバー、接続状況、利用可能なツールの一覧が表示されます。
PostgreSQLデータベースとの連携例
データベースへの読み取り専用アクセスも簡単に設定できます:
claude mcp add postgres https://postgres-mcp-server.com \
-e POSTGRES_CONNECTION_STRING="postgresql://user:password@host:port/database"
これにより、Claude Codeがデータベースのスキーマを理解し、クエリの生成や最適化を支援できるようになります。
JSONファイルからの一括設定
複数のサーバーを一度に設定する場合、JSON設定ファイルからインポートすることも可能です:
# JSON設定からサーバーを追加
claude mcp add-from-json '{"name": "my-server", "command": "node", "args": ["/path/to/server.js"]}'
Claude Desktopとの設定共有
既にClaude Desktopでマネージャーサーバーを設定している場合、その設定をClaude Codeにインポートできます(macOSおよびWSL環境):
# Claude Desktopの設定をインポート
claude mcp import-from-desktop -s user
タイムアウト設定
接続が不安定な環境では、タイムアウト値を調整できます:
# 10秒のタイムアウトを設定
MCP_TIMEOUT=10000 claude
セキュリティ上の注意点
リモートMCPサーバーを使用する際は、以下の点に注意してください:
- 信頼できるソースのみ利用: 公式またはよく知られたベンダーが提供するサーバーのみを使用する
- プロンプトインジェクション対策: インターネットと通信するサーバーを使用する際は、特に慎重になる
- 最小権限の原則: データベース接続等では、必要最小限の権限のみを付与する
チーム導入時のベストプラクティス
チームでMCP設定を共有する場合は:
- プロジェクトスコープを活用: .mcp.jsonファイルをバージョン管理に含める
- 環境変数の分離: 認証情報は環境変数で管理し、設定ファイルには含めない
- 段階的導入: まずは個人スコープで試験運用し、効果を確認してからチーム展開する
これらの手順により、Claude CodeとさまざまなツールとのMCP連携を効率的に活用し、開発ワークフローの大幅な改善を実現できます。
まとめ
今回は、Anthropic社による「Claude CodeのリモートMCPサーバー対応」という発表について解説しました。このアップデートは、単なる機能追加ではありません。AIコーディングアシスタントが、閉じたコードエディタの世界から、様々な外部ツールと連携する開発ワークフローのハブへと進化していくための重要な一歩と言えます。
面倒なサーバー管理から開発者を解放し、安全かつ手軽に外部ツールのコンテキストをAIに与えることで、開発の生産性は劇的に向上する可能性があります。今後、SentryやLinear以外にも、様々なツールがMCPサーバーを提供し始めれば、Claude Codeを中心とした強力な開発エコシステムが生まれるかもしれません。