はじめに
本稿では、Googleが発表した広告運用における新しい自動入札機能「スマート自動入札エクスプロレーション (Smart Bidding Exploration)」について公式ブログ記事「Expand your universe of conversions with Smart Bidding Exploration」をもとに解説します。この機能は、AIを活用してコンバージョンの機会をさらに広げることを目的としており、広告運用者にとって注目すべきアップデートと言えます。
引用元記事
- タイトル: Expand your universe of conversions with Smart Bidding Exploration
- 発行元: Google
- 発行日: 2025年5月21日
- URL: https://blog.google/products/ads-commerce/smart-bidding-exploration-ai/
要点
- スマート自動入札エクスプロレーションは、Google広告の最新の入札機能である。
- この機能は、AIを活用し、より柔軟なROAS(広告費用対効果)目標を設定することで、これまで見逃していた可能性のある価値の高い検索語句にも入札を拡大する。
- 目的は、広告主が新たな見込み顧客を発見し、コンバージョンを増やすことである。
- 既存の「AI Max for Search campaigns」のような機能を補完し、キャンペーン内のより広範な独自のカテゴリから成果の高い検索を積極的に追求する。
- 導入したキャンペーンでは、コンバージョンを伴うユニーク検索語句カテゴリが平均18%、コンバージョン数が平均19%増加したというデータがある。

詳細解説
スマート自動入札エクスプロレーションとは?
スマート自動入札エクスプロレーションは、Google広告の自動入札戦略に新たに追加された機能です。従来の自動入札では、過去のデータに基づいて成果の高いと予測される検索語句に集中的に入札する傾向がありました。しかし、このアプローチでは、一見関連性が低いように見えても、実はコンバージョンにつながる可能性を秘めた「隠れた優良顧客」や「ニッチな検索語句」を見逃してしまうことがありました。
例えば、記事で挙げられている住宅ローンを提供する企業の場合、従来は「住宅ローン」や「家のローン」といった直接的なキーワードで高い成果を上げていたとします。これらのキーワードは確かに重要ですが、スマート自動入札エクスプロレーションを活用することで、「家の買い方」といった、より広範で初期段階の検討層が使用する可能性のあるキーワードにも、AIが効果的に入札できるようになります。これにより、これまでリーチできていなかった潜在顧客層へのアプローチが可能になります。
自動入札とROASについて
ここで、スマート自動入札とROASについて簡単に説明します。
- スマート自動入札(Smart Bidding): Google広告の機能の一つで、機械学習アルゴリズムを利用して、各オークションの状況に合わせて入札単価を自動的に最適化する仕組みです。コンバージョン数やコンバージョン値の最大化など、広告主が設定した目標に応じて機能します。
- ROAS(Return On Ad Spend/広告費用対効果): 広告に投資した費用に対して、どれだけの収益(売上)が得られたかを示す指標です。計算式は「ROAS (%) = (広告経由の売上 ÷ 広告費用) × 100」となります。ROAS目標値を設定することで、その目標を達成するように入札が調整されます。
スマート自動入札エクスプロレーションは、このROAS目標に新しい柔軟性を持たせることで、AIがより広範囲な検索語句を探求し、新たなコンバージョン機会を発見することを可能にします。
ポイントと仕組み
スマート自動入札エクスプロレーションの重要なポイントは以下の通りです。
- 柔軟なROAS目標: 従来の厳格なROAS目標ではなく、より柔軟な目標設定を許容することで、AIが探求できる検索語句の範囲を広げます。これにより、短期的にはROASがわずかに変動する可能性のある検索語句でも、長期的に見て価値が高いとAIが判断すれば、積極的に入札を行います。
- AIによる新規リードの発見: GoogleのAIが、広告主がこれまで手動では設定しきれなかった、あるいは気づかなかったような、コンバージョン確度の高い新たな検索語句や顧客セグメントを自動的に見つけ出します。
- 既存機能との連携: この新機能は、例えば「AI Max for Search campaigns」(検索キャンペーン向けのAI機能の総称、あるいは特定の高度なAI活用キャンペーンタイプを指すと考えられます)のような、意図に基づいた関連性の高い検索に対して広告を表示する既存の機能を補完する形で機能します。スマート自動入札エクスプロレーションは、それに加えて、キャンペーン内のより多様な独自のカテゴリから、高いパフォーマンスが期待できる検索を積極的に探し出します。
- 広範なカテゴリからの探索: 単にキーワードのバリエーションを増やすだけでなく、AIがより広い文脈や関連性の中から、コンバージョンにつながる可能性のある検索カテゴリを探索します。
期待される効果
Googleの内部データによると、スマート自動入札エクスプロレーションを利用したキャンペーンでは、平均して以下の成果が見られています。
- コンバージョンを伴うユニーク検索語句カテゴリが18%増加
- コンバージョン数が19%増加
これは、広告主がこれまでリーチできていなかった新しい顧客層に広告を届け、結果として全体のコンバージョン数を底上げできる可能性を示唆しています。特に、市場が成熟し、既存のキーワードだけでは成果の伸び悩みを感じている広告主にとって、新たな成長機会をもたらす機能と言えるでしょう。
日本のマーケターにとっての意義
日本の市場においても、消費者の検索行動は多様化・複雑化しています。スマート自動入札エクスプロレーションは、こうした変化に対応し、AIの力を借りて新たな顧客接点を見つけ出す手助けとなります。
- 潜在顧客層の開拓: まだ自社の商品やサービスを具体的に認知していないものの、関連する情報や課題に関心を持っている潜在顧客層へのアプローチが期待できます。
- ニッチ市場での機会発見: 大量の検索ボリュームはないものの、コンバージョン率が高いニッチなキーワードや検索カテゴリを発見し、効率的に顧客を獲得できる可能性があります。
- 広告運用の効率化と成果向上: AIが自動で有望な検索語句を探求してくれるため、マーケターは戦略立案やクリエイティブ改善といった、より上位の業務に集中できるようになります。
ただし、この機能を最大限に活用するためには、コンバージョン測定の正確性を担保すること、そしてAIが学習するための十分なデータ量(コンバージョンデータ)を確保することが重要になります。
まとめ
スマート自動入札エクスプロレーションは、Google広告におけるAI活用の新たな一歩であり、広告主がコンバージョンの機会を最大限に広げるための強力なツールです。柔軟なROAS目標とAIによる広範な検索語句の探求により、これまで見過ごされてきた可能性のある顧客層へのリーチを実現し、ビジネスの成長を後押しすることが期待されます。
日本のマーケターの皆様も、この新機能を理解し、自社の広告戦略にどのように組み込めるのかを検討することで、競争の激しいオンライン広告市場において一歩先んじることができるかもしれません。
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