はじめに
本稿では、Googleが発表した検索におけるAIの進化に関する公式ブログ「AI in Search: Going beyond information to intelligence」を基に、Google検索が単なる情報提供ツールから、より高度な「知性」を持つパートナーへと変貌を遂げようとしている様子を解説します。特に、新たに導入される「AIモード」や、より深いリサーチを可能にする機能、さらにはユーザーのタスクを助けるエージェント機能など、未来の検索体験を垣間見ることができます。
引用元公式ブログ
- タイトル: AI in Search: Going beyond information to intelligence
- 発行元: Google
- 発行日: 2025年5月20日
- URL: https://blog.google/products/search/google-search-ai-mode-update/

要点
- Google検索はAIの進化により、複雑な質問やマルチモーダルな質問に対応できるようになっている。
- AI Overviewsは検索結果の満足度と検索頻度を向上させ、特に米国やインド市場では10%以上の利用増を達成している。
- 新たに米国で展開される「AIモード」は、より高度な推論、マルチモーダリティ、フォローアップ質問、ウェブへの詳細なリンクを提供する。
- AIモードは「クエリファンアウト技術」を使用し、質問をサブトピックに分解して同時に多数のクエリを発行することで、ウェブをより深く探索する。
- Googleの最新かつ最も知的なモデルであるGemini 2.5のカスタムバージョンが、AIモードとAI Overviewsに導入される。
- AIモードには、より徹底的な回答を提供する「Deep Search」、カメラ映像をリアルタイムで認識し対話する「Search Live」、チケット購入などを支援する「エージェント機能」などの新機能がLabs経由で順次導入される。
- AIショッピングパートナー機能は、GeminiモデルとShopping Graphを組み合わせ、商品のインスピレーション探しから購入決定までを支援する。
- AIモードは、過去の検索履歴やGmailなどのGoogleアプリと連携し、パーソナライズされた提案を行う。
- 複雑なデータセットを分析し、カスタムグラフを生成する機能もAIモードに搭載される。
詳細解説
Google検索におけるAIの役割の変化
近年、AI技術の発展は目覚ましく、私たちの生活の様々な側面に影響を与え始めています。Google検索もその例外ではありません。従来、Google検索は入力されたキーワードに基づいて関連性の高いウェブページを提示する「情報検索」の役割が中心でした。しかし、公式ブログによれば、GoogleはAIを活用することで、検索を単なる情報収集の手段から、ユーザーの問いに対してより深く理解し、知的な洞察や解決策を提供するパートナーへと進化させようとしています。
その具体的な現れの一つが、2024年のI/Oで発表された「AI Overviews」です。これは、検索結果の上部にAIが生成した要約を表示する機能で、ユーザーが求める情報を迅速に把握できるよう支援します。公式ブログによると、AI Overviewsの導入以降、ユーザーはより複雑で長い、あるいは画像などを含むマルチモーダルな質問をGoogleに投げかける傾向が強まっているとのことです。これは、AIが文脈を理解し、多様な形式の情報を処理できるようになったことを表していると言えます。実際に、米国やインドといった主要市場では、AI Overviewsが表示される種類のクエリにおいて、Googleの利用が10%以上増加したと報告されており、その効果の大きさが伺えます。
新たな検索体験:「AIモード」の登場
そして今回、Googleはさらに一歩進んだAI検索体験として「AIモード」を発表しました。これは、より高度なAI機能をフル活用できる新しい検索インターフェースで、まずは米国で提供が開始されます。
AIモードの最大の特徴は、その高度な推論能力とマルチモーダリティへの対応です。ユーザーは、より複雑な質問を自然な言葉で投げかけたり、画像や音声といった複数の情報を組み合わせて検索したりすることが可能になります。さらに、AIが提示した回答に対してフォローアップの質問を続けることで、対話的に情報を深掘りしていくことができます。
このAIモードの裏側では、「クエリファンアウト技術」というものが活用されています。これは、ユーザーからの1つの質問をAIが複数のサブトピックに分解し、それらに関連する多数のクエリを同時にバックグラウンドで実行するというものです。これにより、従来の検索よりもはるかに広範囲かつ深くウェブ上の情報を探索し、ユーザーの質問に対してより網羅的で関連性の高い情報を提供できるようになります。
そして、このAIモードと既存のAI Overviewsには、Googleの最新かつ最も高性能なAIモデルである「Gemini 2.5」のカスタムバージョンが搭載されます。Geminiは、テキスト、画像、音声、動画など、様々な種類の情報を統合的に処理できるマルチモーダルAIであり、その高度な能力が検索体験を大きく向上させることが期待されます。
AIモードで提供される先進的な機能
AIモードは、今後さらに多くの先進的な機能が追加されていくプラットフォームとして位置づけられています。公式ブログでは、今後数ヶ月以内にLabs(Googleの実験的な機能を試せるプログラム)を通じて提供開始予定のいくつかの新機能が紹介されています。
Deep Search(ディープサーチ):
より徹底的で専門的な情報を求めるユーザーのために、AIモード内に「Deep Search」という機能が導入されます。これは、前述のクエリファンアウト技術をさらに発展させ、数百もの検索を同時に実行し、異なる情報源からの情報を統合・推論することで、専門家レベルの詳細なレポートを数分で作成できるとしています。これにより、従来数時間かかっていたようなリサーチ作業の大幅な時間短縮が期待できます。
Search Live(サーチライブ):
Google Lens(画像で見たものを検索できる機能)は既に多くの人に利用されていますが、Search Liveはこれをさらに進化させ、カメラを通して見ているものについてリアルタイムでAIと対話できるようにします。例えば、複雑な機械の操作方法が分からない時や、植物の名前を知りたい時などに、カメラをかざして質問するだけで、AIが目の前の状況を理解し、解説や提案をしてくれます。これは、Googleが開発中の「Project Astra」というリアルタイムAIアシスタントの技術が活用されています。
Agentic capabilities(エージェント機能):
検索の目的が単なる情報収集だけでなく、「何かを達成する」ことである場合も多いでしょう。そこで、AIモードにはユーザーのタスク実行を支援するエージェント機能が導入されます。これは「Project Mariner」というプロジェクトの成果で、例えば「今週土曜日の野球の試合の安いチケットを2枚、内野席で探して」と頼むだけで、AIが複数のチケット販売サイトを横断的に検索・分析し、条件に合うチケットの選択肢を提示してくれます。将来的には、イベントのチケット購入だけでなく、レストランの予約や地域のサービス予約などにも対応範囲を広げていく予定です。
AIショッピングパートナー:
オンラインショッピング体験もAIによって大きく変わります。新しいAIモードのショッピング機能は、Geminiモデルの能力と、Googleが持つ膨大な商品情報を集約した「Shopping Graph」を組み合わせることで、ユーザーがインスピレーションを得たり、商品を比較検討したり、最適な商品を見つけたりするのを強力にサポートします。特筆すべきは、自分の写真を1枚アップロードするだけで、何十億ものアパレル商品をバーチャル試着できる機能です。気に入った商品が見つかれば、Google Payを利用して最適なタイミングで購入を代行してくれるエージェント機能も搭載される予定です。
Personal context(パーソナルコンテキストの活用):
AIモードは、ユーザーの過去の検索履歴や、オプトイン形式で連携させたGmailなどのGoogleアプリの情報(フライトやホテルの予約確認など)を理解し、よりパーソナライズされた提案を行います。例えば、「今週末ナッシュビルで友達と過ごすのにおすすめの場所は?私たちは音楽好きの食いしん坊です」と検索すると、過去のレストラン予約履歴や検索傾向から屋外席のあるレストランを提案したり、滞在先の近くで開催されるイベント情報を教えてくれたりします。もちろん、これらの個人情報の利用はユーザーが常に管理でき、いつでも連携を解除できます。
Custom charts and graphs(カスタムチャートとグラフの生成):
数値データの分析や可視化が必要な場合、AIモードは複雑なデータセットを分析し、ユーザーの質問に合わせてカスタムのグラフやチャートを生成します。例えば、2つの野球チームのホームでの勝率を比較したい場合、AIがリアルタイムのスポーツ情報を基に分析結果とインタラクティブなグラフを提示してくれます。まずはスポーツと金融関連のクエリから対応が始まります。
まとめ
本稿では、Googleの発表した公式ブログ「AI in Search: Going beyond information to intelligence」を基に、AIによって進化する検索の未来像を解説しました。新たに登場する「AIモード」は、Gemini 2.5という強力なAIモデルとクエリファンアウト技術を駆使し、より深く、より賢く、そしてよりパーソナルな検索体験を提供しようとしています。Deep Searchによる専門的なリサーチ支援、Search Liveによるリアルタイムな視覚情報との対話、エージェント機能によるタスクの自動化など、様々な機能が追加されています。
これらの進化は、私たちが情報を得る方法、学ぶ方法、そして日々のタスクをこなす方法を根本から変える可能性を秘めています。Google検索が目指す「情報から知性へ」というシフトは、まさにAI時代における検索の新しいスタンダードを築こうとする野心的な試みと言えるでしょう。今後の展開を引き続き注視していきます。
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