[Google I/O 2025]Vertex AIで進化するGemini 2.5:思考の可視化と高度セキュリティでAI開発を革新

目次

はじめに

 本稿では、Google Cloud Blogに2025年5月21日付で掲載された記事「Gemini 2.5 Flash and Pro expand on Vertex AI to drive more sophisticated and secure AI innovation」を基に、エンタープライズ向けのAI開発を大きく前進させる可能性を秘めた Gemini 2.5 Flash および Gemini 2.5 Pro モデルのVertex AIにおける最新機能について解説します。

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要点

  • Googleは、Vertex AIプラットフォーム上で提供されるGemini 2.5 FlashおよびProモデルの機能を拡張した。
  • 主な新機能は、「思考サマリー(Thought summaries)」、「ディープシンクモード(Deep Think mode)」、そして「高度なセキュリティ(Advanced security)」である。
  • 思考サマリーは、モデルの思考プロセスを整理して提示することで、AIタスクの検証、ビジネスロジックとの整合性確認、デバッグの簡素化を可能にし、AIシステムの信頼性を向上させる。
  • ディープシンクモードは、Gemini 2.5 Proにおいて、複数の仮説を検討してから応答する新しい研究技術を用いることで、数学やコーディングのような非常に複雑なユースケースでの推論能力を強化する。
  • 高度なセキュリティ機能は、ツール使用時の間接的なプロンプトインジェクション攻撃に対する保護率を大幅に向上させ、Gemini 2.5をこれまでで最も安全なモデルファミリーとしている。
  • これらの機能強化により、企業はより高度で安全なAI駆動型アプリケーションやエージェントを構築できるようになる。
  • Gemini 2.5 Flashは6月上旬に、2.5 Proはその後すぐにVertex AIで一般提供開始予定である。

詳細解説

 近年、AI技術の進化は目覚ましく、特に大規模言語モデル(LLM)はその応用範囲を急速に広げています。Googleが開発するGeminiファミリーもその一つで、今回、エンタープライズ向けAI開発プラットフォームであるVertex AI上で、Gemini 2.5 FlashとGemini 2.5 Proの機能が大幅に拡張されることが発表されました。これにより、企業はこれまで以上に高度で、かつ安全なAIソリューションを構築できるようになります。

 なお、Vertex AIとは、Google Cloudが提供する統合機械学習プラットフォームです。データの準備からモデルのトレーニング、デプロイ、管理まで、AI開発のライフサイクル全体をサポートします。ここに最新のGeminiモデルが搭載されることで、開発者は最先端のAI機能を自社のアプリケーションやサービスに組み込みやすくなります。

思考サマリー(Thought summaries):AIの「思考」を透明化

 AI、特にLLMは、時に「ブラックボックス」と評されることがあります。つまり、AIがどのようにして特定の結論や回答に至ったのか、その思考プロセスが人間には理解しにくいという課題です。エンタープライズグレードのAIシステムにおいては、この透明性と監査可能性の欠如は、信頼性や安全性の観点から大きな問題となり得ます。

 今回導入された「思考サマリー」は、この課題に対する解決策のひとつです。この機能は、モデルが回答を生成するまでの生の思考プロセス(重要な詳細情報や使用したツールなどを含む)を、明確で理解しやすい形式に整理して提示します。これにより、開発者やユーザーは以下のことが可能になります。

  • 複雑なAIタスクの検証: AIが正しい根拠に基づいて判断しているかを確認できます。
  • ビジネスロジックとの整合性確保: AIの判断が、企業の定めるルールや方針と一致しているかを検証できます。
  • デバッグの大幅な簡素化: 問題が発生した場合に、原因究明が容易になります。

 結果として、より信頼性が高く、頼りになるAIシステムの構築が期待できます。これは、AIの意思決定プロセスを理解し、適切に管理したいと考える企業にとって非常に重要な進歩と言えるでしょう。

ディープシンクモード(Deep Think mode):複雑な問題解決能力の向上

 Gemini 2.5 Proには、「ディープシンクモード」という新たな推論モードが搭載されます。これは、モデルが応答する前に複数の仮説を検討することを可能にする新しい研究技術に基づいています。特に、数学やコーディングといった高度に複雑なユースケースにおいて、その真価を発揮することが期待されています。

 例えば、複雑な数学の問題を解いたり、高度なプログラミングの課題に取り組んだりする際に、このディープシンクモードは、より深く、多角的に思考することで、より正確で質の高い解答を導き出すことができるようになります。この機能は、近々Vertex AIの信頼できるテスター向けに提供が開始される予定です。

 さらに、Gemini 2.5 Proのユーザビリティも向上しており、最大32,000トークンまで設定可能な「思考バジェット(Thinking Budgets)」といった機能が導入されました。これにより、処理能力を細かく制御できるようになり、企業はより複雑な課題に取り組み、より深い洞察を得ることが可能になります。

高度なセキュリティ(Advanced security):エンタープライズ利用に不可欠な安全性

 AIシステム、特に外部ツールと連携するAIエージェントにおいては、セキュリティが極めて重要です。中でも「プロンプトインジェクション攻撃」は深刻な脅威の一つです。これは、悪意のあるユーザーが巧妙に細工した指示(プロンプト)をAIに与えることで、意図しない動作を引き起こさせたり、機密情報を窃取したりする攻撃手法です。特に、AIが外部ツールを利用する際に、そのツールを介して間接的に攻撃が行われる「間接的プロンプトインジェクション」は対策が難しいとされてきました。

 今回の発表では、Gemini 2.5ファミリーにおいて、この間接的プロンプトインジェクション攻撃に対する保護率が大幅に向上したことが明らかにされました。この新しいセキュリティアプローチにより、Gemini 2.5はこれまでで最も安全なモデルファミリーになったとGoogleは述べています。これは、AIを本格的に業務利用しようとする企業にとって、非常に心強いニュースと言えるでしょう。

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企業での活用事例

 これらの新機能は、既に多くの企業でその価値が実証され始めています。

  • Geotab社(商用フリート向けデータ分析エージェント「Geotab Ace」を提供):
     Gemini 2.5 Flash on Vertex AIを利用することで、顧客の質問に対する洞察の関連性を維持しつつ、応答時間を25%高速化。さらに、Gemini 1.5 Proと比較して、質問あたりのコストを最大85%削減できる可能性が示唆されています。これは、AIによる洞察を手頃な価格で大規模に提供する上で不可欠です。
  • Box社(コンテンツ管理プラットフォーム):
     Box AI Extract AgentsにGemini 2.5 on Vertex AIを搭載することで、スキャンされたPDF、手書きフォーム、画像が多いドキュメントなど、複雑な非構造化コンテンツから正確な洞察を即座に抽出できるようになりました。Gemini 2.5 Proの高度な推論能力は、複雑な抽出ユースケースで90%以上の精度を達成し、以前のモデルを条項解釈と時間的推論の両方で上回り、手作業によるレビュー作業の大幅な削減につながっています。
  • LiveRamp社(データ接続プラットフォーム):
     Gemini 2.5の改善された推論能力と洞察に満ちた応答は、LiveRampに多大な可能性をもたらすと評価しています。データ分析エージェントを強化し、広告主、パブリッシャー、リテールメディアネットワーク向けのセグメンテーション、アクティベーション、クリーンルームを活用した測定など、製品スイート全体でサポートを追加できるとしています。

Google Developer Experts (GDEs) による開発事例

 Google Developer Experts (GDEs) と呼ばれる世界中の技術専門家コミュニティも、既にGemini 2.5をテストし、ソリューションを構築しています。

  • Kalev氏は、Gemini 2.5 Proの広大なコンテキストウィンドウと推論能力を利用して、サプライチェーンアナリスト向けのペルソナベースのニュース推薦サービスを構築しました。
  • Rubens氏は、Gemini 2.5 Proをインテリジェントなクエリルーティングと、多様な気象・ハザードデータからの明確で実行可能な緊急ガイダンス生成に活用し、災害対策マルチエージェントシステム「Xtreme Weather App」を構築しました。
  • Truong氏は、GoogleのGemini AIを使用してプルリクエストを自動的にレビューするGitHub Actionを構築し、エラーや矛盾、潜在的なバグを早期に発見することで、より堅牢で信頼性の高いソフトウェア開発に貢献しています。

提供時期

 Gemini 2.5 Flashは2025年6月上旬にVertex AIで一般提供が開始され、Gemini 2.5 Proもその後すぐに一般提供が開始される予定です。

まとめ

 本稿では、Google Cloud Blogの記事を基に、Vertex AIにおけるGemini 2.5 FlashおよびProモデルの最新機能拡張について解説しました。思考サマリーによる透明性の向上、ディープシンクモードによる高度な推論能力の実現、そして大幅に強化されたセキュリティ機能は、企業がAIをより安全かつ効果的に活用するための重要なマイルストーンとなるでしょう。

 特に、AIの「思考プロセス」を可視化する「思考サマリー」は、AIの信頼性を高め、社会実装を加速させる上で大きな意義を持ちます。また、複雑な課題への対応能力を高める「ディープシンクモード」や、セキュリティの強化は、金融、医療、製造業など、ミッションクリティカルな領域でのAI活用を後押しする可能性があります。 日本の企業や開発者にとっても、これらの進化は、AIを活用した新たなサービス開発や業務効率化の大きなチャンスを意味します。提供開始が間近に迫るこれらの新機能を活用し、自社のビジネスにどのように活かせるか、検討を始める良い機会と言えるでしょう。今後のAI技術の発展と、それがもたらすイノベーションに引き続き注目していきたいと思います。

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