はじめに
本稿では、Intel Newsroomが発表した公式ブログ「Computex: Intel Unveils New GPUs for AI and Workstations」を基に、Intelが発表したAIおよびプロフェッショナルワークステーション向けの新しいGPUとAIアクセラレータ、そして関連技術について解説します。
引用元記事
- タイトル: Computex: Intel Unveils New GPUs for AI and Workstations
- 発行元: Intel Newsroom
- 発行日: 2025年5月19日
- URL: https://newsroom.intel.com/client-computing/computex-intel-unveils-new-gpus-ai-workstations
要点
- Intelは、Computex 2025に先立ち、AIおよびワークステーション向けの新GPU「Intel Arc Pro B60」「Intel Arc Pro B50」を発表した。これらは大容量メモリと拡張されたソフトウェアサポートを特徴とする。
- Intel Gaudi 3 AIアクセラレータがPCIeカードおよびラックスケールシステムで提供開始され、スケーラブルなAI推論ソリューションを提供する。
- Intel AI Assistant BuilderがGitHubで公開され、開発者はIntelプラットフォームに最適化されたカスタムAIエージェントをローカルで構築・実行可能になる。
- Intelは台湾における40周年を迎え、現地エコシステムパートナーとの連携強化とイノベーション推進を強調した。
詳細解説
台湾で開催される大規模テクノロジーイベントComputex 2025に先立ち、IntelはAIとプロフェッショナルワークステーション市場に向けた重要な発表を行いました。本稿では、これらの発表内容を技術的な側面も含めて詳しく見ていきましょう。
Intelの台湾における40周年
今回の製品発表は、Intelの台湾における事業展開40周年という記念すべき節目と重なりました。Intelは、この40年間、台湾の技術エコシステムとの協力関係を通じて、x86アーキテクチャを基盤としたイノベーションを推進し、世界に貢献してきたと述べています。高性能AIアプリケーションの需要増に伴い、コンピューティング能力の重要性が増す中、x86アーキテクチャはその中心的な役割を果たし続けるとしています。IntelのCEOであるLip-Bu Tan氏は、「台湾エコシステムとのパートナーシップの力は、過去40年間にわたり、私たちの世界をより良く変えるイノベーションを促進してきました」とコメントしています。
AIおよびワークステーション向け新型GPU:Intel Arc Pro Bシリーズ
Intelは、プロフェッショナル向けのGPUラインナップを拡充し、新たに「Intel Arc Pro B60」と「Intel Arc Pro B50」を発表しました。これらのGPUは、AI推論ワークロードや高度なワークステーションアプリケーション向けに設計されています。
- Xe2アーキテクチャと主要機能:
これらの新しいGPUは、Intelの次世代GPUアーキテクチャである「Xe2アーキテクチャ」を基盤としています。Xe2アーキテクチャは、AI計算を高速化するための専用コア「Intel Xe Matrix Extensions (XMX) AIコア」や、リアルなCG表現を可能にする「高度なレイトレーシングユニット」を搭載しており、クリエイター、開発者、エンジニアに高いパフォーマンスを提供します。 - メモリとスケーラビリティ:
Arc Pro B60は24GB、Arc Pro B50は16GBという大容量のグラフィックスメモリを搭載しています。これにより、大規模なデータセットや複雑なAIモデルを扱う作業がよりスムーズになります。また、マルチGPUスケーラビリティにも対応しており、複数のGPUを連携させて処理能力をさらに向上させることが可能です。 - ソフトウェアと互換性:
これらのGPUは、AEC(建築、エンジニアリング、建設)分野やAI推論ワークステーション向けに最適化されており、幅広いISV(独立系ソフトウェアベンダー)認証と最適化されたソフトウェアによって安定性とパフォーマンスが確保されています。Windows環境ではコンシューマー向けおよびプロフェッショナル向け両方のドライバーと互換性があります。Linux環境では、AI開発を簡素化するためのコンテナ化されたソフトウェアスタックをサポートし、機能や最適化が順次アップグレードされる予定です。
※ワークステーション (Workstation) とは:高度な計算処理能力やグラフィック性能を必要とする専門的な作業に使われる高性能なコンピュータです。
※AEC (Architecture、 Engineering、 Construction) とは:建築・エンジニアリング・建設業界のことで、これらの分野では設計やシミュレーションに高性能なGPUが利用されます。
※ISV認証とは:ソフトウェアが特定のハードウェアで安定動作することを保証するものです。
※コンテナ化されたソフトウェアスタックとは:アプリケーション実行環境をパッケージ化し、異なる環境でも容易にデプロイできる技術です。 - Project Battlematrix:
Intelはさらに、AI開発者が直面する課題を軽減するために設計された、設定変更可能なワークステーションクラスのIntel Xeonベースプラットフォーム「Project Battlematrix」(コードネーム)も明らかにしました。このプラットフォームは、最大8基のIntel Arc Pro B60 24GB GPUをサポートし、合計で最大192GBのビデオメモリを利用可能にします。これにより、最大1500億パラメータの中規模で高精度なAIモデルの処理が可能になるとされています。 - 提供時期:
Intel Arc Pro B60 GPUは、ASRock、Gunnir、Lanner、Maxsun、Onix、Senao、Sparkleなどのアドインボードパートナーから2025年6月にサンプル出荷が開始される予定です。Intel Arc Pro B50 GPUは、2025年7月からIntel正規販売代理店を通じて入手可能になる見込みです。
Intel Gaudi 3 AIアクセラレータの展開
IntelはAI戦略を拡大し、Intel Gaudi 3 AIアクセラレータの新たな展開オプションを発表しました。Gaudi 3は、特に大規模なAIモデルの学習や推論処理に特化したプロセッサです。
- PCIeカード:
Intel Gaudi 3 PCIeカードは、既存のデータセンターサーバー環境内でスケーラブルなAI推論を実現します。PCIe (Peripheral Component Interconnect Express) は、コンピュータ内部で部品間を高速接続する規格です。これにより、中小企業から大企業まで、Llama 3.1 8Bのような比較的小さなモデルから、Llama 4 ScoutやMaverickといった大規模モデルまで、柔軟にAIモデルを実行できるようになります。Intel Gaudi 3 PCIeカードは2025年後半に提供開始予定です。 - ラックスケールシステム:
Intel Gaudi 3ラックスケールシステムのリファレンスデザインは、柔軟性と拡張性を重視して設計されており、1ラックあたり最大64基のアクセラレータを搭載し、8.2テラバイト(TB)のHBM(広帯域メモリ)を提供します。オープンでモジュラーな設計は、特定のベンダーに縛られる「ベンダーロックイン」を回避するのに役立ちます。また、液体冷却システムを採用することで、高いパフォーマンスを維持しつつ、総所有コスト(TCO)を抑制します。
このラックスケールアーキテクチャは、大規模AIモデルの実行に最適化されており、低遅延性能によりリアルタイム推論に優れています。これらの構成は、クラウドサービスプロバイダー(CSP)向けのカスタム設計およびOCP(Open Compute Project)設計の両方をサポートし、オープンで柔軟かつ安全なAIインフラストラクチャへのIntelのコミットメントを強化するものです。
※ラックスケール (Rack Scale) とは:データセンターなどで複数のサーバー等をラックに搭載し大規模システムを構築する形態です。
※HBM (High-Bandwidth Memory) とは:プロセッサとメモリ間のデータ転送を高速化する高性能メモリです。
※CSP (Cloud Service Provider) とは:クラウドサービスを提供する事業者、OCP (Open Compute Project) はデータセンターハードウェア設計をオープンソース化するプロジェクトです。
Intel AI Assistant Builderの公開
CES 2025で初めて披露された「Intel AI Assistant Builder」が、GitHubにてパブリックベータ版として公開されました。これは、IntelベースのAI PC上でカスタムAIエージェントをローカル環境で構築・実行するための軽量なオープンソフトウェアフレームワークです。AcerやASUSなどがComputexで発表する新しいソリューションの例にも見られるように、このツールを使用することで、開発者やパートナーは、自社組織や顧客向けにAIエージェントを迅速に作成し、展開することができます。
まとめ
本稿では、IntelがComputex 2025に先駆けて発表したAIおよびワークステーション向けの新しいGPU「Arc Pro Bシリーズ」、AIアクセラレータ「Gaudi 3」の展開、そして「Intel AI Assistant Builder」の公開について解説しました。
Arc Pro BシリーズGPUは、Xe2アーキテクチャ、XMX AIコア、大容量メモリといった特徴を備え、クリエイターやAI開発者に強力なツールを提供します。特に「Project Battlematrix」は、中規模AIモデル開発のハードルを下げる可能性を秘めています。
Gaudi 3 AIアクセラレータは、PCIeカードとラックスケールシステムという2つの形態で提供されることで、既存のデータセンターへの導入から大規模AI基盤の構築まで、幅広いニーズに対応します。オープン性と柔軟性を重視した設計は、今後のAIインフラの標準化にも影響を与えるかもしれません。
Intel AI Assistant Builderの登場は、AI技術をより身近なものにし、パーソナライズされたAI体験の創造を加速させるでしょう。ローカルで動作するAIエージェントは、プライバシーや応答性の面でも利点があります。
Intelによるこれらの発表は、AI技術の進化と普及をさらに加速させるものであり、プロフェッショナルな現場から個人のPC利用に至るまで、多岐にわたる分野でのイノベーションを後押しすることが期待されます。今後の市場の反応や、これらの新技術を活用した具体的なソリューションの登場に注目していきたいところです。