[ニュース解説]米国のレポートからみるAIで代替できない安定・高収入の職業とは?

目次

はじめに

 近年、人工知能(AI)の進化は目覚ましく、私たちの生活や仕事に大きな変化をもたらしています。特に、AIによって仕事が奪われるのではないかという不安を感じている方も少なくないでしょう。本稿では、学歴がなくとも安定した収入を得られ、かつAIに代替されにくいとされる13の職業を紹介する米国USA TODAYの記事「13 jobs that don’t require a college degree — and won’t be replaced by AI」をもとに、今後のキャリアを考える上でのヒントを提供します。

引用元記事

要点

  • 必ずしも大学の学位が、安定し高収入な仕事に就くための必須条件ではない。
  • 特定の職業は、人間特有のスキルが求められるため、AIによる代替が困難である。
  • AIによる代替リスクに基づき、そのような職業を13種類特定している。これらの職業は、高卒以上の学歴で就業可能であり、年収5万ドル以上が見込め、成長分野で需要の高いスキルを要するものである。

詳細解説

背景:アメリカにおける大卒資格と仕事の現状

 アメリカでは大学進学が一般的とされていますが、教育データ・イニシアチブによると、25歳以上のアメリカ人で大学を卒業しているのはわずか38%です。多くの人々が、高騰する大学の学費や、学位取得の価値、そしてAIやロボット技術の進化による雇用の不安定化に懸念を抱いています。

 このような背景のもと、履歴書作成サービスを提供する「Resume Now」社が、アメリカ合衆国労働統計局(Bureau of Labor Statistics、米国の労働経済や統計に関する主要な政府機関)のデータを活用し、学歴フィルターがなく、AIにも代替されにくい将来性のある仕事に関するレポートを発表しました。このレポートで紹介されている仕事は、年収5万ドル(1ドル155円換算で約775万円)以上が見込め、かつ人間による対話、予測不可能な環境での手先の器用さ、高度な創造性などが求められる点が共通しています。

AIに代替されにくい仕事の特徴

 AI技術は目覚ましい進歩を遂げていますが、依然として人間の持つ特定の能力を完全に再現するには至っていません。元記事で紹介されている仕事がAIに代替されにくいとされる主な理由は、以下の要素が複雑に絡み合っているためです。

  • 高度な対人スキル: 顧客とのコミュニケーション、共感、交渉、チームワークなど、感情やニュアンスの理解が不可欠な業務。
  • 複雑な問題解決能力と意思決定: 予測不可能な状況や、倫理的な判断が求められる場面での対応。
  • 手先の器用さと身体性: 精密な手作業、物理的な空間での作業、状況に応じた柔軟な身体の動き。
  • 創造性とオリジナリティ: 新しいアイデアの創出、芸術的センス、レシピ開発など、AIには模倣が難しい独創的な思考。
  • 現場での臨機応変な対応: 予期せぬトラブルへの対応や、状況に応じた判断が求められる業務。

 これらの要素は、現在のAI技術では完全に自動化することが難しく、人間の「手触り感」や「判断力」が依然として重要であることを示しています。

AIによる代替リスクの低い仕事

 Resume Now社のレポートによると、以下の仕事はAIの能力をはるかに超えるスキルが必要とされるため、収入と雇用の安定性が高いとされています。給与は年収中央値です(1ドル155円で換算したおおよその日本円も記載しますが、あくまで目安です)。

  1. 森林火災検査官および予防専門家 (Forest fire inspectors and prevention specialists)
    • 業務内容:火災の危険性を評価し、山火事の原因を調査し、予防戦略を策定します。
    • AI耐性理由:現場での人間の判断が不可欠であり、完全な自動化は困難です。
    • 年収中央値:71,420ドル(約1,107万円)
  2. 客室乗務員 (Flight attendants)
    • AI耐性理由:食事の提供や機内での顧客サービスには、人間ならではの対応が求められます。AIでは緊急時の対応や乗客のケアはできません。
    • 年収中央値:68,370ドル(約1,060万円)
  3. 宿泊施設の支配人 (Lodging managers)
    • 業務内容:宿泊施設の運営を監督し、スタッフを管理し、顧客満足度を維持します。
    • AI耐性理由:顧客の個人的な要望への対応や、予期せぬトラブル(例:客室のトイレの詰まり)の解決など、AIでは対応できません。
    • 年収中央値:65,360ドル(約1,013万円)
  4. 電気技師 (Electricians)
    • AI耐性理由:シャンデリアの取り付けのような電気工事には、現場での人間の作業が必要です。
    • 年収中央値:61,590ドル(約955万円)
  5. 配管工、パイプフィッター、スチームフィッター (Plumbers, pipefitters and steamfitters)
    • 業務内容:住宅や商業施設における水回りやガスシステムの設置・保守を行います。
    • AI耐性理由:配管作業は予測不可能な要素が多く、AI制御のロボットでは一部しか対応できません。
    • 年収中央値:61,550ドル(約954万円)
  6. 産業機械整備士 (Industrial machinery mechanics)
    • 業務内容:工業地帯の機械システムのメンテナンスを行います。
    • AI耐性理由:リアルタイムでの問題解決能力が求められ、AIには困難です。
    • 年収中央値:61,170ドル(約948万円)
  7. シェフおよび料理長 (Chefs and head cooks)
    • AI耐性理由:スープの味見やレシピ開発、食材の調理には創造的な感覚が必要です。
    • 年収中央値:58,920ドル(約913万円)
  8. 補聴器専門家 (Hearing aid specialists)
    • 業務内容:補聴器の調整や患者のケアを行います。
    • AI耐性理由:実践的な対応が求められ、AIでは対応できません。
    • 年収中央値:58,670ドル(約910万円)
  9. パーソナルサービス・マネージャー (Personal service managers)
    • 業務内容:ウェルネスプログラムの監督、イベント企画、高級コンシェルジュサービスなどを担当します。
    • AI耐性理由:個人的なやり取り、感情的知性、意思決定が求められ、AIには処理できません。
    • 年収中央値:57,570ドル(約892万円)

AIによる代替リスクが中程度の仕事

 これらの仕事は、将来的には一部の業務が自動化される可能性がありつつも、現時点では人間の判断力と適応能力に依存しているとされています。

  1. 機械の保守作業員 (Maintenance workers, machinery)
    • 業務内容:上記の産業機械整備士と似ていますが、主に産業機械の定期的な保守を行います。
    • AI耐性理由:複雑な修理には、人間の作業員によるリアルタイムの問題解決が必要です。
    • 年収中央値:61,170ドル(約948万円)
  2. 保険営業担当者 (Insurance sales agents)
    • AI耐性理由:AIは一部の引受業務を処理できますが、このキャリアには個人的なサービスが不可欠です。
    • 年収中央値:59,080ドル(約916万円)
  3. 航空貨物取扱監督者 (Aircraft cargo handling supervisors)
    • AI耐性理由:AIは一部の航空貨物業務を処理できますが、予期せぬ事態に対応するためには人間の監督者が必要です。
    • 年収中央値:58,920ドル(約913万円)
  4. セキュリティおよび火災報知システム設置業者 (Security and fire alarm systems installers)
    • AI耐性理由:セキュリティおよび火災システムの設置とトラブルシューティングには人間が必要です。
    • 年収中央値:56,430ドル(約875万円)

日本における意義と考察

 本稿で紹介したアメリカの事例は、日本の労働市場やキャリア観にも示唆を与えるものです。日本でも少子高齢化による労働力不足や、AI技術の導入が進む中で、「人間にしかできない仕事」の価値はますます高まると考えられます。

 特に、コミュニケーション能力、ホスピタリティ、複雑な状況への対応力、創造性といったスキルは、業種や職種を問わず重要性を増していくでしょう。また、元記事で挙げられた職業の多くは、専門的な技術や知識を現場で習得していく「手に職」系の仕事であり、必ずしも大学卒業が前提とならない点も注目されます。

 日本では、アメリカほどではないものの、大学進学率は依然として高い水準にありますが、学歴だけでなく、実践的なスキルや経験、そして人間力を重視する傾向も強まっています。AI時代においては、変化を恐れず新しいスキルを学び続ける姿勢(リスキリング)や、AIにはない独自の価値を提供できる人材が求められるでしょう。

まとめ

 本稿では、USA TODAYの記事を元に、学歴がなくてもAIに代替されにくいとされる13の仕事を紹介しました。これらの仕事に共通するのは、人間ならではの対話能力、創造性、問題解決能力、そして手先の器用さなどが求められる点です。

 AIの進化は、私たちから仕事を奪うだけでなく、新しい働き方や価値創造の機会をもたらす可能性も秘めています。重要なのは、AIを恐れるのではなく、AIにはできない人間の強みを理解し、それを活かせる分野で専門性を高めていくことではないでしょうか。今後のキャリアを考える上で、本稿で紹介した視点が少しでもお役に立てれば幸いです。

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