はじめに
近年、様々なサービスでAI(人工知能)の活用が進んでいます。メッセージングアプリとして世界中で利用されているWhatsAppにも、新たに「Meta AI」という機能が導入されました。WhatsAppを提供するMeta社(旧Facebook社)は、この機能を「任意」であると説明していますが、アプリから削除できない仕様がユーザーの間で議論を呼んでいます。本稿では、このWhatsAppの新AI機能について、技術的な側面やプライバシーに関する懸念点などを、分かりやすく解説していきます。
引用元記事
- タイトル: WhatsApp defends ‘optional’ AI tool that cannot be turned off
- 発行元: BBC News
- 発行日: 2025年4月23日
- URL: https://www.bbc.com/news/articles/cd7vzw78gz9o
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要点
今回WhatsAppに導入された「Meta AI」機能のポイントは以下の通りです。
- WhatsAppのチャット画面にMeta AIのロゴ(青い円)が常時表示され、タップするとAIチャットボットと対話できる。
- Meta社はこの機能を「完全に任意」と説明しているが、ユーザーはアプリからこの機能を削除・非表示にすることができない。
- この仕様に対し、一部ユーザーからは不満やプライバシーに関する懸念の声が上がっている。
- AIとの対話内容はMeta社に送信される可能性があるが、個人間のチャットは引き続きエンドツーエンドで暗号化されると説明されている。
詳細解説
Meta AIとは? WhatsAppに何が追加されたのか
Meta AIは、Meta社が開発した大規模言語モデル(LLM)「Llama」を基盤とするAIチャットボットです。WhatsAppアプリ内のチャットリスト画面右下や、画面上部の検索バーに「Ask Meta AI or Search」として表示されます。ユーザーがこのAIに質問を投げかけると、天気予報を答えたり、何かを教えてくれたり、新しいアイデアを提案したりするように設計されています。例えば、記事の筆者がグラスゴーの天気を尋ねたところ、気温、降水確率、風、湿度に関する詳細なレポートが数秒で返ってきたと報告されています。
しかし、この機能は現在、一部の国でのみ展開されており、同じ国でも利用できるユーザーとできないユーザーがいる状況です。
「任意」なのに削除できない? ユーザーの反応
Meta社は、このMeta AI機能を「完全に任意」であり、アプリ内の「チャンネル」や「ステータス」といった他の機能と同様の位置づけであると説明しています。つまり、使うかどうかはユーザー次第、というスタンスです。
しかし、多くのユーザーが問題視しているのは、この機能を使わない選択をしたとしても、アプリのインターフェースからAIのロゴや検索バーを削除・非表示にできない点です。これにより、「強制的に使わされているように感じる」「画面がごちゃごちゃする」といった不満が、X(旧Twitter)やRedditなどのSNSで表明されています。これは、以前Microsoft社が導入した常時稼働の「Recall」機能が、ユーザーからの強い反発を受けて無効化オプションを追加した経緯とも比較されています。
技術的な側面とプライバシーへの懸念
プライバシーに関する懸念も指摘されています。Meta AIを初めて使用する際には、「AIは共有されたメッセージのみを読み取ることができる」「個人間のチャットはエンドツーエンド暗号化されたままであり、Meta社が読み取ることはできない」と表示されます。
エンドツーエンド暗号化とは、メッセージが送信者と受信者のデバイス間でのみ解読可能であり、途中の経路やサービス提供者(この場合はMeta社)でさえ内容を読み取ることができないようにする技術です。これにより、個人間のプライベートな会話の機密性が保たれます。
しかし、Meta AIと対話する場合、その対話の相手は友人ではなくMeta社になります。AIに送信された情報は、Meta社によってAIの改善や他の目的のために保持・利用される可能性があります。Meta社自身も、「AIに保持・利用されたくない情報(機密性の高い話題を含む)は共有しないように」と注意喚起しています。
さらに、AI専門家からは、Meta社が既存の市場支配力を利用してユーザーをAIのテスト対象にしているのではないか、という批判も出ています。また、Meta社がAIモデル(Llama)のトレーニングに、著作権で保護された書籍などを不正に使用したのではないかという疑惑(The Atlantic誌による調査報道)も報じられており、著者団体などが法的措置を講じている状況です。この点についてMeta社はコメントを控えています。
英国の情報コミッショナーオフィス(ICO)は、WhatsAppにおけるMeta AI技術の採用と個人データの利用について、引き続き監視していくと述べています。
まとめ
WhatsAppに新たに導入されたMeta AI機能は、ユーザーにAIによる利便性を提供する一方で、「任意」とされながらもアプリから削除できない仕様が、ユーザーの選択権やプライバシーに関する懸念を引き起こしています。個人間のチャットの暗号化は維持されるものの、AIとの対話データがどのように扱われるかについては、依然として不透明な部分があります。
テクノロジー企業がサービスにAIを統合していく流れは今後も続くと考えられますが、その過程でユーザーの意思やプライバシーがどのように尊重されるのか、注意深く見守っていく必要があるでしょう。本稿が、WhatsAppの新機能とそれに伴う議論を理解する一助となれば幸いです。
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