はじめに
近年、AI(人工知能)技術の進化は目覚ましく、その心臓部とも言えるのが高性能な「AIチップ」です。特に、米国のNvidia社はこの分野で圧倒的なシェアを誇ってきました。しかし、米中間の技術競争や安全保障上の懸念から、米国は中国への先端AIチップ輸出に厳しい規制をかけています。このような状況下、中国の通信機器大手Huawei(ファーウェイ)が、Nvidia製の代替となりうる新型AIチップ「Ascend 910C」の量産準備を進めているとの報道がありました。本稿では、このHuaweiの動きについて、技術的なポイントも押さえながら解説します。
引用元情報
- タイトル: Exclusive: Huawei readies new AI chip for mass shipment as China seeks Nvidia alternatives, sources say
- 発行元: Reuters
- 発行日: 2025年4月21日 (最終更新: 2025年4月22日)
- URL: https://www.reuters.com/world/china/huawei-readies-new-ai-chip-mass-shipment-china-seeks-nvidia-alternatives-sources-2025-04-21/
・本稿中の画像に関しては特に明示がない場合、引用元記事より引用しております。
・記載されている情報は、投稿日までに確認された内容となります。正確な情報に関しては、各種公式HPを参照するようお願い致します。
・内容に関してはあくまで執筆者の認識であり、誤っている場合があります。引用元記事を確認するようお願い致します。
要点
- Huaweiは、新型AIチップ「Ascend 910C」の量産出荷を早ければ5月にも開始する計画です。
- 910Cは、既存の「910B」プロセッサ2つを高度な統合技術で組み合わせたもので、Nvidiaの高性能チップ「H100」に匹敵する性能を目指しています。
- これは、米国によるNvidia製チップ(特に「H20」)の中国向け輸出規制強化を受け、中国国内のAI企業にとって重要な代替選択肢となります。
- 製造には中国のSMIC社などが関わっていますが、歩留まり率(良品率)などの課題も指摘されています。また、一部で台湾TSMC製の半導体が使用されている可能性も報じられています。
詳細解説
AIチップとは? なぜ重要なのか?
まず、AIチップについて簡単に説明します。AI、特に深層学習(ディープラーニング)と呼ばれる技術では、膨大なデータを処理して学習(モデルのトレーニング)したり、学習済みモデルを使って推論(予測や判断)したりする必要があります。この大量の計算を効率的に行うために特別に設計された半導体がAIチップです。代表的なものにGPU(Graphics Processing Unit)があり、元々はコンピューターグラフィックス処理用でしたが、並列計算能力の高さからAI分野で広く使われるようになりました。NvidiaはこのGPU市場でトップを走り、AI開発に不可欠な存在となっています。
米国の輸出規制とその影響
米国政府は、先端技術、特に軍事転用可能な技術が中国に渡ることを警戒し、高性能なAIチップの輸出に規制をかけています。当初はNvidiaの最先端チップ「H100」などが対象でしたが、規制を回避するために性能を調整した中国市場向けモデル「H20」なども、最近になって輸出ライセンスが必要となりました。これにより、中国のAI企業は高性能なAIチップの入手が困難になり、国産チップへの依存度を高める必要に迫られています。
Huaweiの新チップ「Ascend 910C」の実力
このような背景の中、Huaweiが投入するのが「Ascend 910C」です。記事によると、これは全く新しい技術的ブレークスルーというよりは、「アーキテクチャ(設計構造)の進化」と表現されています。具体的には、既存のAIチップ「Ascend 910B」を2つ、高度なパッケージング技術(チップを物理的に実装する方法)によって1つに統合しているとのことです。
これにより、単純計算で910Bの2倍の計算能力とメモリ容量を持つことになります。さらに、多様なAIのワークロード(処理するデータの種類や計算内容)への対応強化など、細かな改良も加えられているようです。目標とする性能は、米国の輸出規制対象であるNvidiaの高性能チップ「H100」に匹敵するレベルとされています。これが実現すれば、中国国内のAI開発者にとって、Nvidia製チップの有力な代替品となる可能性があります。
製造に関する課題と論点
高性能チップの製造は非常に高度な技術を要します。910Cの主要部品の一部は、中国の半導体受託製造大手SMICが、7nm(ナノメートル)プロセスと呼ばれる比較的高度な技術で製造していると報じられています。しかし、その歩留まり率(製造したチップのうち、正常に動作する良品の割合)は低いとの指摘もあり、安定した大量供給には課題が残る可能性があります。
さらに、一部の910Cには、台湾のTSMC(世界最大の半導体受託製造企業)が中国企業Sophgo向けに製造した半導体が使われているのではないか、という情報も報じられています。米国はTSMCがSophgo向けに行った作業について調査しており、この点は今後の米中関係や半導体サプライチェーンにも影響を与える可能性のあるデリケートな問題です。HuaweiおよびTSMCは、TSMC製のSophgoチップの使用や、2020年9月以降のHuaweiへの供給を否定しています。
まとめ
今回報じられたHuaweiの新型AIチップ「Ascend 910C」の量産計画は、米国の輸出規制強化という逆風の中で、中国がAI分野での自立を目指す動きを象徴しています。910Cは、既存チップを組み合わせるという工夫により、Nvidiaの高性能チップに匹敵する性能を実現しようとしており、中国国内のAI企業にとっては待望の選択肢となるでしょう。 一方で、製造面での歩留まり率の課題や、TSMC製チップの使用疑惑など、今後の安定供給や国際的な影響については不透明な部分も残ります。Huaweiのこの動きが、世界のAI開発競争や半導体サプライチェーンにどのような影響を与えていくのか、引き続き注目していく必要がありそうです。
コメント