はじめに
本稿では、Google Researchが発表した「InstructPipe」という新しい技術について公式ブログ「InstructPipe: Generating Visual Blocks pipelines with human instructions and LLMs」よりご紹介します。これは、私たちが普段使っている言葉(自然言語)で指示するだけで、AI開発に必要な「パイプライン」と呼ばれる処理の流れを自動で組み立ててくれる画期的なシステムです。AI開発の経験がない方や、プログラミングに詳しくないビジネスパーソンの方でも、AI開発のハードルを大きく下げることが期待されます。
引用元情報
- タイトル: InstructPipe: Generating Visual Blocks pipelines with human instructions and LLMs
- 発行元: Google Research Blog
- 発行日: 2025年4月18日
- URL: https://research.google/blog/instructpipe-generating-visual-blocks-pipelines-with-human-instructions-and-llms/
論文URL:InstructPipe: Generating Visual Blocks Pipelines with Human Instructions and LLMs
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要点
- InstructPipeは、テキストによる指示でAIパイプライン(処理の流れ)を自動生成するGoogle Researchの研究プロトタイプです。
- これまでAI開発ツール(Visual Blocks)では、専門知識がないとブロックの選択や接続が難しいという課題がありました。
- InstructPipeは、大規模言語モデル(LLM)を活用し、指示に合った部品(ノード)を選び、それらを繋ぎ合わせる設計図(pseudocode)を生成し、最終的に視覚的なパイプラインとして表示します。
- これにより、AI開発の手間が大幅に削減され、学習コストも低減し、より多くの人がAI開発のアイデアを形にしやすくなります。
詳細解説
AI開発をより身近にする「Visual Blocks」とその課題
近年、AI(人工知能)は目覚ましい発展を遂げ、様々な分野で活用されています。しかし、その開発には専門的な知識やプログラミングスキルが必要となることが多く、誰もが気軽に扱えるものではありませんでした。
そこでGoogleは、プログラミングの知識があまりなくてもAI開発を試せるように、「Visual Blocks for ML」というツールを開発しました。これは、機能を持つブロック(ノード)を画面上で線で繋いでいくことで、視覚的にAIの処理の流れ(パイプライン)を構築できる、いわゆるビジュアルプログラミングのフレームワークです。これにより、コードを一行も書かずにAI開発のプロトタイピング(試作)が可能になりました。
しかし、Visual Blocksにも課題がありました。それは、多くのブロックの中から適切なものを選択し、正しく接続するには、ある程度の知識や慣れが必要だった点です。特に初心者にとっては、白紙の状態からパイプラインを構築するのは依然としてハードルが高い作業でした。
自然言語でAIパイプラインを自動生成する「InstructPipe」
この課題を解決するために開発されたのが、本稿で紹介する「InstructPipe」です。これは、Visual Blocksをさらに進化させ、テキストで指示するだけでAIパイプラインを自動生成してくれるAIアシスタントです。ユーザーは「こういう処理をしたい」と自然言語で記述するだけで、InstructPipeが最適なブロックの組み合わせを提案し、自動で接続まで行ってくれます。
InstructPipeの仕組み:3つのコアモジュール
InstructPipeは、主に3つの要素で構成されています。



- Node Selector(ノードセレクター):
- ユーザーの指示と、作りたいパイプラインの種類(タグ)に基づき、多数あるVisual Blocksのブロック(ノード)の中から、関連性の高い候補を絞り込みます。ここでは、各ノードの簡単な説明を大規模言語モデル(LLM)に与え、効率的に候補を選び出します。
- Code Writer(コードライター):
- Node Selectorで絞り込まれたノード候補とユーザーの指示を基に、パイプラインの設計図となる「pseudocode(疑似コード)」を生成します。pseudocodeは、JSON形式よりもはるかに簡潔(トークン効率が良い)な形式でパイプラインの構造(どのノードをどう繋ぐか)を定義します。この段階では、各ノードの詳細な情報(入出力データ型や接続例など)をLLMに与え、より正確なpseudocodeを作成します。
- Code Interpreter(コードインタープリター):
- Code Writerが生成したpseudocodeを解釈し、Visual Blocks上で実際に表示・編集可能なパイプライン(JSON形式)に変換します。この際、自動でレイアウト調整も行い、見やすい形でパイプラインを表示します。
この一連の流れにより、ユーザーは複雑な操作をすることなく、自然言語での指示だけで目的のAIパイプラインの雛形を得ることができます。
効率と使いやすさの向上を実証
Google Researchは、InstructPipeの効果を検証するために、技術評価とユーザー評価を実施しました。
- 技術評価: InstructPipeを使用した場合、AIを使わずにVisual Blocksでパイプラインを構築する場合と比較して、ユーザー操作の回数が約81%削減されることが示されました。多くのケースで、指示だけでほぼ完成に近いパイプラインが生成されました。
- ユーザー評価: 参加者にInstructPipeを使った場合と使わなかった場合の両方でパイプライン構築を体験してもらった結果、InstructPipeを使った方がタスク完了時間が短縮され、ユーザー操作回数も大幅に減少し、主観的な作業負荷(精神的負担、時間的切迫感、フラストレーションなど)も有意に低いことが分かりました。参加者からは、「Visual Blocksへの入門サポートになる」「既存のワークフローに統合されている点が良い」「AI開発のプロトタイピングや教育に役立つ」といった肯定的なフィードバックが得られました。



人間とAIの協調による開発へ
評価結果は、InstructPipeがパイプライン作成の大部分を自動化できる可能性を示していますが、完全に自動化できるわけではない点も指摘されています。LLMが常に完璧なパイプラインを生成できるとは限りませんが、InstructPipeは少なくともパイプラインの一部を自動生成することで、ユーザーが残りの部分を修正・完成させるという、人間とAIが協力する開発プロセスを強力にサポートします。
まとめ
InstructPipeは、自然言語による指示を通じてAIパイプライン開発のハードルを劇的に下げる可能性を秘めた技術です。大規模言語モデル(LLM)を活用することで、ノードの選択と接続を自動化し、ユーザーはより迅速かつ少ない負担でアイデアの試作を行えるようになります。
この技術は、AI開発の専門家でない人々にもその門戸を開き、人間とAIの協調による新しい開発スタイルを促進することが期待されます。今後の更なる研究開発により、機械学習の分野における表現力や創造性が、さらに向上していくことでしょう。
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