[ニュース解説]AIは人間の仕事を「完全に置き換える」? 投資家が警鐘を鳴らす2つの職業とは

目次

はじめに

 近年、AI(人工知能)の進化は目覚ましく、私たちの生活や働き方に大きな変化をもたらしつつあります。特に「AIは人間の仕事を奪うのか?」という問いは、多くのビジネスパーソンや一般の方々にとって大きな関心事でしょう。

 大手テック企業は「AIは人間を拡張するものだ」と説明することが多いですが、ある著名なテック投資家は異なる見解を示しています。

 本稿では、ベンチャーキャピタル「Benchmark」のジェネラルパートナーであるVictor Lazarte氏が指摘する、AIによる仕事の完全な置き換えの可能性と、特に影響を受けやすいとされる2つの職業について、「 ‘Fully Replacing People’: A Tech Investor Says These Two Professions Should Be the Most Wary of AI Taking Their Jobs」という記事をもとにわかりやすく解説します。

引用元情報

・本稿中の画像に関しては特に明示がない場合、引用元記事より引用しております。
・記載されている情報は、投稿日までに確認された内容となります。正確な情報に関しては、各種公式HPを参照するようお願い致します。
・内容に関してはあくまで執筆者の認識であり、誤っている場合があります。引用元記事を確認するようお願い致します。

 要点

  • BenchmarkのVictor Lazarte氏は、大手企業が言うような「AIは人間を拡張する」という見解は「欺瞞(bulls—t)」であり、AIは人間を「完全に置き換える」と主張しています。
  • Lazarte氏は、特に弁護士リクルーター(採用担当者)の2つの職業が、AIによって置き換えられるリスクが高いと指摘しています。
  • 同氏は、今後3年以内に、AIが法務における定型業務や候補者の面接などを担うようになると予測しています。
  • 一方で、AIは仕事を奪うだけでなく、少人数のチーム巨大な企業を立ち上げる可能性も秘めていると述べています。

詳細解説

「拡張」ではなく「完全な置き換え」

  AI技術、特に近年の生成AI(Generative AI)は、文章作成、要約、翻訳、質疑応答、さらには簡単なプログラミングなど、これまで人間にしかできないと考えられてきた知的作業をこなせるようになってきました。多くの企業は、AIを人間の能力を高めるための「ツール」として位置づけ、「AIは人間の仕事を補助・拡張するもの」と説明する傾向があります。しかし、Lazarte氏はこの見解に異を唱え、AIは単なる補助にとどまらず、特定の業務においては人間を完全に置き換える力を持っていると断言しています。これは、AIが特定のタスクを人間と同等か、それ以上の効率や精度で実行できるようになった現実を直視した発言と言えるでしょう。

なぜ弁護士が危ないのか?

  Lazarte氏は、特に弁護士、とりわけ若手の弁護士が行うような定型的な業務がAIに取って代わられる可能性が高いと指摘します。具体的には、判例調査、契約書のレビュー、法的文書の草案作成といった、時間と労力がかかるものの、パターン化しやすい作業が該当します。

  記事によると、法曹界ではすでにAIツールの導入が進んでいます。

  • リーガルテック(法律×テクノロジー)のスタートアップLibraは、3,000人以上の弁護士と150の法律事務所をサポートしており、調査からレビューまで日常的な法務作業のあらゆる段階を支援するAIを提供しています。
  • アメリカ法曹協会(ABA)は、ClaudeChatGPTGeminiCopilotを法律専門家向けの主要なAIツールとして挙げています。
  • ミシガン大学ロースクールの研究では、AIを使用することで法学生の法的分析の質が最大28%向上したことが示されました。
  • Thomson Reutersの調査(2024年7月)では、法律事務所がAIを最優先の戦略的課題として挙げていることが明らかになっています。
      これらの事実は、AIが法務分野において、単なる効率化ツールではなく、業務の質そのものを向上させ、将来的には人間の役割を代替しうるポテンシャルを持っていることを示唆しています。

なぜリクルーターが危ないのか?

  採用活動においても、AIの活用は急速に進んでいます。Lazarte氏は、AIが候補者の面接まで行うようになると予測しています。

  記事で紹介されている事例は以下の通りです。

  • Jobscanの調査によると、Fortune 500企業の99%が応募者のフィルタリング(書類選考)にAIを使用しています。
  • Resume Builderの調査(2024年)では、40%以上の企業が候補者との面接や対話にAIを使用していました。これは、テキストベースのチャットボットによる一次スクリーニングや、録画されたビデオ面接のAIによる分析などが考えられます。
  • AI採用スタートアップも活発です。候補者探し、面接、日程調整を行うOptimHireはシードラウンドで500万ドルを調達。仮想リクルーターを開発するConverzAIはシリーズAで1,600万ドルを調達。履歴書スクリーニングと候補者マッチングを行うMercorはシリーズBで1億ドルを調達し、顧客にはOpenAIも含まれています。
      これらの動きは、採用プロセスの初期段階だけでなく、候補者とのコミュニケーションや評価といった、より人間的なスキルが必要とされる領域にもAIが進出してきていることを示しています。特に、大量の応募者を効率的に処理したり、客観的な基準で初期評価を行ったりする点で、AIは大きな力を発揮します。

AI時代の新たな可能性

  Lazarte氏は、AIが既存の仕事を置き換える一方で、新たなビジネスチャンスも生み出すと指摘しています。「非常に少人数のチームによって、時価総額1兆ドル規模の企業が生まれるだろう」と予測しており、AIを使いこなすことで、従来では考えられなかったような効率性とスケールで事業を展開できる可能性を示唆しています。これは、AIによる自動化・効率化が、起業やイノベーションのハードルを下げ、新しい価値創造を加速させるという側面を表しています。

まとめ

  本稿では、テック投資家Victor Lazarte氏の「AIは人間を完全に置き換える」という主張と、特に影響を受けやすいとされる弁護士とリクルーターの仕事について解説しました。法務分野での文書作成や調査、採用分野での候補者スクリーニングや初期面接など、定型的かつパターン化しやすい業務を中心に、AIによる代替が進む可能性は十分に考えられます。

  しかし、Lazarte氏が指摘するように、AIは脅威であると同時に、新たな価値創造の機会をもたらす技術でもあります。AIの進化を正しく理解し、変化に対応していくことが、これからの時代を生きる私たちにとって重要になるでしょう。

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