[ニュース解説]AIが名作映画を蘇らせる:ラスベガスSphereでの「オズの魔法使い」体験の裏側

目次

はじめに

 本稿では、Google DeepMindとGoogle CloudのAI技術が、1939年の名作映画「オズの魔法使い」をラスベガスの巨大球体型施設Sphereで、かつてない没入型体験として蘇らせるプロジェクトについて公式ブログ「The AI magic behind Sphere’s upcoming ‘The Wizard of Oz’ experience」をもとに解説します。AIエンジニア以外の方にもご理解いただけるよう、専門用語は避けつつ、技術的なポイントも押さえてご紹介します。

引用元:

タイトル: The AI magic behind Sphere’s upcoming ‘The Wizard of Oz’ experience
URL: https://blog.google/products/google-cloud/sphere-wizard-of-oz/
発行日: 2025年4月8日

要点

  • Google DeepMindとGoogle Cloudは、Sphere Studios、Magnopus、Warner Bros. Discoveryなどと協力し、AI技術を用いて「オズの魔法使い」をSphere向けに再構築しています。
  • このプロジェクトは、2025年8月28日にSphereで公開される予定です。
  • 従来のCGI(コンピューターグラフィックス)では困難だった、オリジナル映像の超高解像度化、シーンの拡張、キャラクターの自然な動きの再現などを、生成AI(Imagen, Veo, Gemini) を活用して実現します。
  • AIモデルのファインチューニングには、オリジナルの映画フィルムだけでなく、脚本や写真などの膨大な補足資料が活用されています。

詳細解説

Sphereとは?

 まず前提として、Sphereはラスベガスにある巨大な球体型エンターテインメント施設です。内部には16万平方フィート(約14,864平方メートル)もの超高解像度LEDスクリーンが広がり、観客を包み込むような没入型体験を提供します。2023年9月のオープン以来、新しい形のエンターテインメントを開拓してきました。

なぜAIが必要だったのか?

 1939年に公開された「オズの魔法使い」は、当時のテクニカラーという技術で撮影された35mmフィルムです。オリジナルの映像は、現代の基準では解像度が低く、画面比率も異なります(4:3)。これをSphereの巨大な16Kスクリーンに映し出すには、単に拡大するだけでは画質が粗くなり、全く通用しません。

 また、映画ではカメラの切り替えによって、特定のシーンに一部のキャラクターしか映っていない場面があります。しかし、Sphereのような没入型空間では、観客は360度に近い視野を持つため、シーン全体を自然に見せる必要がありました。

 これらの課題を従来のCGIで解決しようとすると、莫大な費用と時間がかかります。そこで注目されたのが、生成AIの最新技術でした。

活用されるAI技術

 このプロジェクトでは、主に以下のAI技術が活用されています。

  1. スーパーレゾリューション(超解像): GoogleのAIモデルVeo、Imagen、Geminiを特別に調整し、オリジナルの低解像度フィルムを高精細な映像に変換します。これにより、Sphereの巨大スクリーンでも鮮明な映像を実現します。
  2. AIアウトペインティング(領域拡張): AIが映像の周囲を自然に描き足し、オリジナルの4:3の映像をSphereの広大なスクリーンに合わせて拡張します。カメラのカットで途切れていた部分も、AIが違和感なく補完します。
  3. パフォーマンス生成: 拡張された環境の中に、オリジナルの俳優たちの演技や動きを自然に組み込みます。これにより、キャラクターがまるでその場で動いているかのようなリアリティを生み出します。

ファインチューニングの重要性

 これらのAI技術の精度を高める上で鍵となったのが、ファインチューニングと呼ばれるプロセスです。これは、AIモデルに追加の学習データを与え、特定のタスクに合わせて性能を調整することです。

 今回のプロジェクトでは、オリジナルの映画フィルムだけでなく、撮影脚本、プロダクションイラスト、写真、セットの設計図、楽譜など、アーカイブから収集された膨大な資料がAIモデル(特にVeoとGemini)の学習に使用されました。これにより、AIは登場人物の細かな表情(ドロシーのそばかすなど)や、オリジナルの雰囲気をより忠実に再現できるようになったのです。例えば、トトがより多くのシーンで自然に動き回る様子などが実現可能になりました。

まとめ

 Sphereでの「オズの魔法使い」体験は、生成AIがエンターテインメントの可能性を大きく広げることを示す画期的なプロジェクトです。古い映像資産を現代の技術で蘇らせ、全く新しい没入体験を創り出す試みは、映画業界だけでなく、多くの分野に示唆を与えるものと言えるでしょう。

 Google DeepMindの研究者であるDr. Irfan Essa氏が「AIを使って開発する魔法を披露する最高の機会」と語るように、このプロジェクトはAI技術の進化とその応用力の高さを象徴しています。公開されれば、AIとクリエイティビティの融合がもたらす未来を体感できる、貴重な機会となるはずです。

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