道路計画のための交通量調査 – AIがもたらす新時代
はじめに
道路計画において交通量調査は不可欠な基礎データです。国土交通省や地方自治体、道路事業者は、この交通量データに基づいて道路整備計画を立案し、予算配分を決定します。従来、この交通量調査は多くの人手と時間を要する作業でしたが、AI技術の進展により、調査方法が大きく変わりつつあります。本記事では、道路計画に携わる方々に向けて、AI交通量調査がもたらす新時代について解説します。
国交省の道路交通センサスとは
詳細や正確な情報に関しては、以下の公式HPを参照してください。
以下は、簡単に整理したものとなります。
○令和3年度 全国道路・街路交通情勢調査 一般交通量調査 集計表
https://www.mlit.go.jp/road/census/r3/
○道路関係データ(交通量・旅行速度・渋滞 等)
https://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-data/ir-data.html
調査の目的
道路の交通量や状況を調査し、道路の計画、建設、維持修繕などのための基礎資料を収集すること
調査の体系
一般交通量調査は以下の3つの調査から構成されています。
- 道路状況調査
- 交通量調査
- 旅行速度調査
交通量調査の詳細
調査対象路線
- 高速自動車国道
- 都市高速道路
- 一般国道
- 主要地方道(都道府県道および指定市の市道)
- 一般都道府県道
- 指定市の一部の一般市道
調査方法
- 調査対象路線を交通量調査単位区間に分割
- 各区間を代表する地点を設定
- 秋季の平日に調査を実施
- 方向別・車種別(小型車・大型車)の12時間または24時間交通量を測定
調査実施の選定基準
- 自動車起終点調査(OD調査)結果の照査に必要な区間
- 新規供用等で交通流が大きく変化した区間は実測調査
- その他の区間は推定による交通量調査
観測方法
機械観測を基本とし、以下の方法から適切なものを選定:
- 交通量常時観測装置
- 画像認識型交通量観測装置 ※この装置が一般にAI交通量システムと呼ばれているものです。
- 可搬式トラフィックカウンター(トラカン)
- ビデオ観測 ※ビデオから目視で調査する従来型の計測方法です。
自動車分類
ナンバープレートの形状、塗色、分類番号によって分類します。
小型車
- 軽乗用車
- 乗用車
- 軽貨物車
- 小型貨物車
大型車
- バス
- 普通貨物車
- 特種(殊)車
AI技術による適合方法
最新のAI交通量調査システムは、基本的に以下の要件に対応するよう設計されています。
- 高精度車種識別:
- ディープラーニングによる車種分類(二輪、乗用車、バス、小型貨物、大型貨物など)
- 国交省分類への自動マッピング機能
- 複数車線・方向の同時計測:
- 広角カメラ1台で複数車線をカバー
- 進行方向の自動判別と集計
- データ出力の互換性:
- 国交省フォーマットへの自動変換機能
- 既存システムとの連携可能なAPI提供
AI技術による車種別・時間帯別の詳細データ取得
AI調査で得られる詳細データ
従来の調査では捉えきれなかった詳細なデータが、AI交通量調査により取得可能になります。
- 詳細な車種区分:
- 二輪車(原付/自動二輪)
- 乗用車(軽自動車/普通車)
- バス(マイクロ/大型)
- 貨物車(小型/中型/大型/特大)
- 詳細な時間帯分析:
- 5分単位での交通量変動
- 時間帯別の車種構成比
- ピーク時の詳細分析
- 速度データの取得:
- 区間平均速度の計測
- 速度別車両数分布
- 渋滞発生時の速度低下パターン
将来予測シミュレーションへの活用
高精度データがもたらすシミュレーションの進化
AI交通量調査の詳細かつ長期的なデータは、将来予測シミュレーションの精度を大きく向上させます:
- 精緻なOD(起終点)推定:
- 複数地点のデータ統合による走行経路推定
- 時間帯別・曜日別の変動パターン把握
- 異常値の適切な処理:
- 長期データによる異常日の特定と除外
- 工事・イベントなどの一時的影響の分離
- AIによる予測モデル構築:
- 機械学習による交通量予測モデルの構築
- 気象条件・季節変動を考慮した予測
AI交通量調査導入のためのロードマップ
- 現在の交通量データの収集・分析状況の確認
- 具体的な課題・ニーズの明確化
- 期待する成果・KPIの設定
- 実証実験箇所の選定(課題が顕著な場所)
- 必要機材・システムの選定
- 評価方法・期間の決定
- 1〜3箇所でのAIカメラ設置
- データ収集・分析の実施
- 従来手法との比較検証
- 実証結果の評価(精度・コスト・効果)
- 本格導入のための規模・予算検討
- 段階的拡大計画の立案
- 計画に基づくシステム導入
- 既存システムとの連携
- 継続的な効果測定とシステム改善
導入にあたっての留意点
予算確保のポイント
- 費用対効果の明確化:従来調査とのコスト比較、得られる追加価値の定量化
- 複数部署での共同利用:交通部門だけでなく、防災・観光・都市計画など他部門との共同予算化
- 国の補助金活用:スマートシティ関連補助金、道路DX推進事業の活用
法的・倫理的配慮
- 個人情報保護:カメラ映像の取り扱いに関するガイドライン整備
- 情報公開:設置目的・データ利用方法の適切な告知
- セキュリティ対策:データ転送・保存時の暗号化、アクセス制限
導入時のポイント
- 具体的事例の共有:具体的事例の確認
- 段階的導入:小規模実証から始め、効果を示してから拡大
- 複数課題解決の可能性の認識:交通だけでなく防犯・防災・観光などマルチユースが可能
まとめ
AIによる交通量調査は、道路計画の新時代を切り拓いています。従来の人手による限定的な調査から、24時間365日の詳細データ取得へと進化したことで、より科学的かつ効率的な道路計画が可能になりました。
国交省基準に適合した高精度データ収集、詳細な車種別・時間帯別分析、そして精緻な将来予測シミュレーションの実現により、限られた予算での最大効果を生み出す道路計画が可能になります。
多くの自治体や道路管理者が、すでにAI交通量調査の導入によって具体的な効果を得ています。ぜひ、まずは小規模な実証実験から始めてみてはいかがでしょうか。
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